レポート

2016.06.27

グローバルな経営とリーダーシップにおける文化の要素 ― 国際会議『The Culture Factor @Tokyo 2016』開催レポート

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地紙 厚 Atsushi Jigami
地紙 厚 サイコム・ブレインズ株式会社
執行役員
グローバルな経営とリーダーシップにおける文化の要素

国際会議「The Culture Factor」は、
the hofstede centre と itim International が行う、「文化と経営」に関する年次会議です。

Conferenceの目的

文化は経営を左右する重要な要素(Factor) です。
この会議はグローバルビジネスの成功に必要なテーマを、組織文化と国民文化という側面から深く検討し、経営ツールとしての文化のインパクトとその活用方法について、英知を共有することを目的にしています。

Conferenceの対象者
  • グローバルに展開する企業の経営幹部及び経営企画、人事、マーケティング、製品開発分野の方々。
  • グローバル経営、多分化マネジメントの研究者及びコンサルタントの方々。
  • グローバルなキャリアを志向する大学生、大学院生。
:ホフステード・センター、イティム インターナショナル、サイコム・ブレインズ株式会社
:早稲田大学 アジア・サービス・ビジネス研究所
:独立行政法人 日本貿易振興機構(ジェトロ)
特別協賛
:NTTコミュニケーションズ株式会社
:株式会社 電通、リロ・パナソニック エクセルインターナショナル株式会社
:公益財団法人 国際文化会館

「文化」が経営を左右する重要な要素であることは、世界の経営者が強く認識しており、近年日本でもその傾向は強まっています。去る5月20日、東京・六本木の国際文化会館で国際会議「The Culture Factor @Tokyo 2016」が開催されました。この会議は、グローバル経営において文化がもつインパクトとその活用方法について議論し英知を共有することが目的です。国民文化・組織文化の専門家集団itim Internationalとthe hofstede centreが主催するこの会議に、今年はサイコム・ブレインズが加わり、アジアで初めての開催となりました。会議の事務局を務めたサイコム・ブレインズの地紙が、当日の模様をレポートします。

アジアで初めての開催。予想を超える参加者に、「経営における文化の問題」に対する関心の高まりを実感

itim International

皆さんこんにちは。サイコム・ブレインズの地紙です。私はグローバル経営を推進する日系企業の人材育成や組織開発の支援を担当しています。近年は「外国人社員とのコミュニケーションが上手くいかない」「海外拠点のローカルマネジャーの課題解決力を強化したい」といったご相談が増えています。こうした問題を解決するために、サイコム・ブレインズはitim International(※)とのパートナーシップのもと、異文化適応のためのトレーニングや、組織文化診断プログラムの普及に取り組んでいます。

itim International(※)
組織文化と国民文化の専門家集団。世界で初めて各国の文化的価値観の違いを数値化した社会組織人類学者、ヘールト・ホフステード博士の研究をビジネスに応用し、最先端のツールを駆使したサービスを提供している。1985年創業。

『The Culture Factor』は、itim Internationalがこれまでメキシコ、ポルトガル、ノルウェーで開催してきた年次会議ですが、今回はアジアで初めて東京での開催が実現しました。先述の通り日本企業がグローバル化することで様々な問題に直面している今、このような会議が催されたことは大変意義深いものであったと思います。また本会議の趣旨にご賛同いただいた、早稲田大学アジア・サービス・ビジネス研究所、日本貿易振興機構(JETRO)、NTTコミュニケーションズ(株)、(株)電通、リロ・パナソニック エクセルインターナショナル(株)といった企業・団体から強力にバックアップしていただけたのも、こうしたテーマに対する関心の高まりを示すものではないかと思います。

当日は世界各地から「文化」や「文化と経営との関わり」などをテーマに活躍している研究者やコンサルタント、人材・組織開発従事者など200名を超える方々が集まり、熱気を帯びた1日となりました。

解題:異文化マネジメントを科学的研究へと進化させたホフステード

itim International

会議は早稲田大学アジア・サービス・ビジネス研究所の太田正孝教授によるイントロダクションから始まりました。太田教授は異文化と経営とのかかわりを長年研究されてきた日本の第一人者であり、ホフステード博士の研究への深い知見をお持ちの方であることから、会議の口火を切っていただくのに相応しい方です。20分という限られた時間ではありましたが、「ホフステード博士の研究を含むこれまでの世界の異文化マネジメント分野における重要な研究」「グローバリゼーションの変化とリーダーシップのあり方」「異文化マネジメントを考えるためのCDEスキーム」について、分かりやすくかつ具体的にレクチャーしていただきました。

基調講演(1):文化は果たして「壁」か「カーテン」か?

itim International

続いては、ホフステード博士のご子息でオランダのワゲニンゲン大学のヘルト・ヤン・ホフステード准教授による基調講演です。講演では、ホフステード博士が提唱する「国民文化6次元モデル(※)」の意義を再確認しながら、文化の壁を越えてビジネスを成功させるために必要な視点について、ユーモアを交えながらも示唆に富む提言がなされました。タイトル通り、「文化の違いとは、一見立ち塞がる壁のように見えるが、その違いを客観視すれば、実はカーテンのように行き来できるものだ」というメッセージは、海外でのビジネス経験や外国人との深い交流が少ない日本人にとって、まずは文化の違いとは何かを知り、それに上手に適応していくことの重要性を伝えてくれます。

ホフステードの国民文化6次元モデル(※)
各国の文化の違いを理解するツール。6つの次元(切り口)からその国民の文化を分析し、各国の平均的傾向を数値化することで日本を含む各国の相対的位置づけを理解することができる。このツールを活用することで、国を跨る多様なチームにおいてより良い協力関係を構築する手がかりを得ることができる。

パネルディスカッション:グローバルな企業運営における異文化マネジメント

itim International

基調講演に続くパネルディスカッションでは、日産自動車(株)アジア大洋州ビジネスマネジメント部長の中村氏、NTTコミュニケーションズ(株)オープンネットワークサービス部門長の橋本氏、そして(株)電通より人事局次長の酒井氏が登壇。3名それぞれの「異文化にかかわる経験」と「それに対してどのように対応してきたのか」について語っていただきました。モデレーターの古森剛氏の軽妙な進行と、同席された太田教授の的を射たコメントにより、グローバル経営に取り組む多くの日本企業が同様に直面している、あるいは近い将来直面するであろう課題と、それに対する有効な対処法について共有することができ、大変有意義なセッションとなりました。

ここで午前のプログラムは終了、90分のネットワーキングランチに入ります。私は午後の部に向けた準備もあり、皆さんの輪の中に入ることはできなかったのですが、美味しい食事と国際色豊かな会話を楽しんでいただけたようでした。

分科会A:日本の持つ「文化力」の発掘と展望

itim International

午後からは会場を3つに分け、それぞれ異なるテーマを設定した分科会が行われました。

分科会Aでは、電通総研の宮林氏をモデレーターに、クーリエ・ジャポンの井上編集長、Kudan(株)代表の大野氏、西村あさひ法律事務所の水島氏、(株)かえる代表の渡辺氏、イティム・ジャパンの宮森代表が登壇しました。グローバル戦略を推進する人材の育成や組織開発が求められる中、往々にして「(欧米と比較した)日本人の劣る点」に焦点をあてた議論になりがちです。しかし、そのアプローチは何か重要なものを見逃しているのではないか?日本人が本来持っている強みや得意とする能力にあらためて光を当てる必要があるのではないか?…というのがこの分科会の問題意識です。グローバルな環境で活動していくうえで、日本人としてのアイデンティティについて考えさせられる貴重なセッションだったと思います。

分科会B:多文化共生型社会に求められるグローバルタレントとは?

itim International

分科会Bでは、午前の部にも登壇した太田教授、早稲田大学商学研究科から小西氏および小野氏、日本貿易振興機構(JETRO)で日本企業の新興国進出支援に携わる田中氏、浜松国際交流協会で多文化共生コーディネーターを務める松岡氏が登壇しました。この分科会では、「JETROによる日本企業のグローバル人材ニーズの調査結果の報告」「浜松を中心に異文化との共生に取組む地域コミュニティの経験知の共有」「早稲田大学による学術的なグローバルリーダーの定義と最近の研究動向」と、それぞれのフィールドでの経験・知見・研究をもとに、21世紀を担うグローバルな日本人を育むための戦略的課題について議論が交わされました。

分科会C:企業の異文化適応力を高めるためのソリューション

itim International

分科会Cはホフステードの6次元モデルを活用した企業の事例をもとに議論が展開されました。前半は、サイコム・ブレインズの勝が登壇。「日本企業の直面する多様性や、M&A等の経営グローバル化のもたらす課題解決に、6次元モデルがどう役立つのか?」というテーマを考えるために、実際にあった事例を題材に問題の要因や対策を考えるケーススタディを行いました。後半はitimからラルフ・ファン・ハーストレヒト氏と藤井氏が登壇。「バーチャルチームを想定した異文化環境でのリーダーシップ開発」というテーマのもと、世界各国にメンバーが点在するプロジェクトチームのコミュニケーションやマネジメントにおいて、日本人がリーダーシップを発揮するためのツールが紹介されました。

分科会の後は、早稲田大学大学院商学研究科の池上准教授がモデレーターとなり、それぞれの成果を共有し合うセッションが行われました。どの分科会も盛りだくさんの内容でしたが、各分科会を巡回していた池上氏がそれぞれの分科会を簡潔にサマリーしてくださったおかげで、参加していない分科会の全体像をつかむことができました。

基調講演(2):文化と戦略のアラインメント:組織のゴールを達成するベストな環境とは?

宮川 由紀子

分科会のまとめの後、この日2つ目の基調講演が行われました。講演者はitim Internationalの創業者、ボブ・ワイスフィス氏です。全体的に「国民文化」に関する言及が多かった今年の『Culture Factor』ですが、この講演では「組織文化」にフォーカスが置かれ、M&A、PMIの事例を交えながら組織文化の可視化とその活用の意義について語っていただきました。

企業経営は個人ではなく集団や組織で行われるものであり、そのためには組織が持つ文化を知り、戦略目標を達成するためにどのような文化を作るべきかを考えねばならない。さらに“グローバル”という要素が加わると、国民文化の違いのマネジメントという要素が入ってきます。これは日本企業にとって大きなチャレンジですが、世界に伍して生き残っていくためには避けては通れない道だと思います。

今回の『The Culture Factor @Tokyo 2016』は、そうした現実を再確認するとともに、チャレンジする人、チャレンジする企業にとって何らかの有効な手がかりを提供する貴重な機会になったのではないかと思います。サイコム・ブレインズは今後もそうした人々や企業のチャレンジを支援してまいります。近い将来、また日本でこうした会議を開くことができることを祈っています。

以上、ここまで進行順に沿って会議の概要をお伝えいたしました。次回は国内外から会議に参加した人たちの声や、各々のセッションの詳しい内容などをお伝えする予定です。ご期待ください。

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