コラム

2014.10.03

「他流試合」で自信を得て、 一歩踏み出す女性管理職たち

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太田 由紀 Yuki Ota
太田 由紀 サイコム・ブレインズ株式会社
取締役

前回の本コラムでは、マイノリティであるが故に自信が無く、職場で孤独な女性管理職が陥りがちな
「負のスパイラル」(怖くて、次の一歩を踏み出せない→やはり自分には能力が無い→自分には、管理職は無理→…)と、そこから抜け出すのに効果的な方法が「他流試合への参加」であることを、お伝えしました。
さて今回は、その女性管理職が、「他流試合」を通じて自信をつけていく様子を具体的にお伝えします。

マイノリティでない状態で、正のスパイラルを体験する

私が実施している公開研修会の多くは、3〜4回シリーズで実施されます。受講者の多くが上司からの指示により参加している場合もあり、研修開始時のモチベーションが必ずしも高いとは限りません。

初回はまず講師の自己紹介の後、受講者全員に自己紹介をして頂きます。
「人前で話すのが下手で」「あがり症なんです」と言う受講者も多いのですが、アウトプットするためには、考えをまとめ言語化せねばならないので、否が応にも思考が深まります。自分がこの場所に来ている理由や、職場に持ち帰らねばならないことなどを考えるうちに、自分が期待されて今のポジションにいることや、研修会に派遣された理由などに思い至り、急速に研修会に対するモチベーションが上がっていきます。

その状態で周りを見渡してみると、普段と違い皆自分と同じ女性、同じ立場ですので、一歩踏み出すハードルがいつもより低く感じられ、多くの受講者が自分から手を挙げて堂々と自己紹介にチャレンジします。元々能力も意欲も高い方々なので「中身のある、印象深い自己紹介をしたい」と気合が入り、それぞれが真摯にアウトプットします。聴いている方も、自分と同じ立場の受講者に興味津々ですから、それぞれの自己紹介を真摯に、時には深く共感しながら傾聴します。

このセッションが終わったときには、受講者に「私たちは同志」という一体感が生まれています。また同時に、考える→アウトプットする→承認される→アウトプットする勇気がわく→さらに考える→…という「正のスパイラル」を体験したことで、「一歩踏み出す自信」も育ち始めます。

適切な武器と、真摯なフィードバックを得ることで、自信を持つ

自己紹介の後、受講者は、女性管理職の課題解決に有効な思考法やフレーム・スキルについて講義を受けた後に、その場で個人ワークやロールプレイトレーニングに取り組みます。学んだ内容について必ずすぐにアウトプットが求められ、その都度他の受講者や講師から、承認と共にフィードバックを得ることで、上記の「正のスパイラル」を何度も体験することが出来ます。

ここで毎回感心するのは、フィードバックに対する受講者たちの真摯な姿勢です。個人ワークの発表内容やロールプレイの結果に対し、周囲のメンバーが、良かった点も改善点も率直にフィードバックします。フィードバックを受ける受講者も、防衛的になることなく、素直に受け止め早速改善しようとします。

この「率直なフィードバックを出すこと」と「素直に受け止めること」については、他流試合ならではの効果が発揮されていると思われます。仮に社内のライバルたちが相手であると、弱みを見せられないという警戒心や相手への遠慮といった心理が働くことが多く、どちらも簡単ではありません。

経験学習のサイクルを組み込むことで「実行しないわけにいかなくなる」

さらにこの研修会では、かなり重い課題が設定されています。研修会で学んだ複数の思考法やフレーム・スキル=「武器」を着実に身につけるために、研修と研修の間に、必ず実践してレビューを行い、その内容を次回の研修会で全員の前で発表することが義務付けられています。組織行動学者であるデービッド・コルブが提唱する「経験学習モデル」を組み込んでいるのです。

「経験学習モデル」とは、「経験→省察→概念化→実践」のサイクルを繰り返すことで、実際の経験を通しそれを省察することでより深く学べるという考え方ですが、これを研修会に組み込むことで、受講者の「経験から学ぶ力」を強化することを目的としています。

受講者にとって負担が大きい課題であることは事実ですが、受講者が嬉しそうに「発表させられるので、やらないわけにいかないんですよね」とコメントしたり、「自分の中に判断の軸が出来ました」と誇らしげに話すのは、実は自分の「経験から学ぶ力」が強化されている、と実感できているからではないかと思われます。

次回のコラムで、経験学習についてもう少し詳しく触れていきます。

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