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齊藤 彩
サイコム・ブレインズ株式会社
ソリューションユニット コンサルタント
2020年までに指導的地位に占める女性の割合を30%に引き上げる──政府が打ち出した女性活躍推進の目標、いわゆる「202030」は達成されず、2030年へと先送りされました。管理職や役員の登用といった努力目標を達成するべく、企業は様々な取り組みをしてきましたが、果たしてこれらの活動は、経営にプラスの効果をもたらしたのでしょうか。また、すでに一定の成果を上げている企業のダイバーシティ推進担当者からは次のステップとして何に取り組めばよいか、今後の方針や施策に悩む声もお聞きします。これからの答えを紐解くカギは「タレントの可視化」にあります。今回はアセスメント活用で企業のタレントマネジメントを支援しているプロファイルズ社の福島竜治氏をお招きし、企業が今後のダイバーシティ推進のために取り組むべきことは何か、ディスカッションをしました。
「少数派」に目を向ける。そのための物差しをもっていますか?
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私はコンサルタントとして企業の人材育成に関する取組みを支援していますが、お客様からダイバーシティ推進や女性社員の育成を目的とした研修のご相談をいただくことも多いです。その中で、弊社ではアセスメントを活用していますが、「なぜアセスメントをダイバーシティ推進や女性社員の育成に使うのか?」というご質問をお客様からよくいただきます。本日は、そのような疑問にお答えできたらと思っています。
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私はダイバーシティ&インクルージョンの領域でプログラムのディレクションを務め、また講師としても登壇をしております。活動の中で私が強く意識しているのが、ダイバーシティ推進を経営に寄与するために行っていく、ということです。組織の中で、多様性が進むことにより、オピニオン・ダイバーシティ(意見の多様性)が生まれ、企業の意思決定や成長に貢献していく。そのために何をしていくか、というところが非常に大事だといつも思っている次第です。
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HRDグループ プロファイルズの福島です。私は、アメリカ発のアセスメントProfileXT(以下、PXT ※注1)を広める業務に携わっています。PXTは人と職務の適合性、ジョブ・フィットを測定します。その人材が、どの職務やポジションに最もフィットして輝くのかという、適材適所をコンセプトとしたアセスメントです。近年、リモートワーク普及など世の中がものすごいスピードで変化している中、DXやイノベーション、ダイバーシティといった経営テーマを進める目的でアセスメントを活用する企業が増えていると感じています。サイコム・ブレインズではいわゆる女性活躍推進でPXTを使っていただいていると聞き、興味をもちました。PXTは採用や配置、登用といった使い方がメインだったので意外性があるなと。あらためて、なぜ、どのような目的で使用しているのかについてお聞かせいただきたいです。
※注1:ProfileXTとは
「人材が職務にどれだけ効果的に適合するか(ジョブ・フィット)」を測定するアセスメント。回答者の「思考スタイル」「行動特性」「仕事への興味」を20の指標で測定し、組織内の特定の職務における理想的な人物像(パフォーマンスモデル)との適合性を可視化する。測定結果は、パフォーマンスモデルとの比較、採用面接ガイド、育成・指導ガイドなど13種のレポートで出力され、採用、配属、選抜、評価、育成など、タレントマネジメントの様々な局面で活用できる。
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弊社がPXTを女性社員の登用やエンパワーメントに使う理由は三つあります。一つ目は登用時の人材の可視化のためです。何らかのポジションに対して登用をしようという時、少数派である女性が候補者として目に入らない、ということはまだまだあります。性別に関わらず優秀な人材は可視化すべきであり、そのためのツールとして個々の特性がはっきりとでるPXTは優れていると感じています。
二つ目は、女性が正当な自信を身につけるための内省ツールとしてです。一般的に、女性の方が男性よりも自信を持ちにくく、自己を過少に評価する傾向にあることが様々な研究から明らかになっています。そのような方が自信を身につけるためには自分が持つ特性・強みを知ることが有効で、弊社では女性を対象とした研修でPXTを用いた内省のワークを行っています。結果レポートをみて内省し、「自分にはこんな特性があったのか」「これは今の仕事に活かせるんじゃないか」「自分にも意外な強みがあった」と認識していただくことで、自信を獲得することができます。
三つ目は育成です。管理職候補の方が回答したPXTの結果を上司の方に見ていただきます。自部門で求められる人物像・管理職像をふまえ、活かせる強みや、強化していくポイントなどを特定し、日々のコーチングやキャリア形成の参考にしていただきます。
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ずいぶん状況が変わってきたとはいえ、まだまだ日本企業には男性中心社会、画一的な価値観、年功序列といったものが存在しています。そのような中で、なぜPXTを使うかというと、性別などの属性に関わらず「この人物はポジションや職務に向いているか?」をフェアに評価するためということですね。
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そうです。人物を評価するための客観的な指標をもつことは非常に重要です。人というものは、どうしても性別やある局面の印象などで他者を見てしまいがちです。そこにアセスメントという物差しが加わると、一人ひとりに対する見方が変わる。たとえば、部内にチームを上手く仕切れていない新任管理職の人がいて、「本人の指導力に問題がありそうだ」という印象を持っていたとします。しかし、その人にPXTを回答してもらった結果、「論理的に判断する指向性が高い。決断性や主張性もある」というようなことがわかった場合、「意思決定を下し、メンバーに伝える力はあるのに、それを発揮できていないとしたら、もしかしたら環境にも問題があるのではないか」というように、新たなことが見えてきたりします。