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西田 忠康
サイコム・ブレインズ株式会社
ファウンダー 代表取締役社長
私は、過去ASTDの国際会議にデンバー、ダラス、そして今年のワシントンと3年間続けて参加し、その間にシンガポールで行われたASTD-STADAでは自ら講演も行ってきた。それを踏まえて、ASTDとは何かについて、私なりの考えをお伝えしたい。
日本における人事系イベントとの違い
日本における人事系イベントとの違い 写真
最近日本でも、人事や人材開発の関係者を対象としたイベントがとても増えている。ビジネス環境が変化するなかで、タレントマネジメントに対する要請が多様化、複雑化してきており、人事担当者の情報収集ニーズが高まっていることが背景にあるものと思われる。サイコム・ブレインズのコンサルタントも新興国ビジネスのリーダー開発、戦略人事、上級管理職研修プログラムの紹介等、様々なテーマで講演を行っている。大体、日本でのイベントは、ベンダーのプロモーションが多い。費用も参加者負担ではなく、出講・出典者負担である。
ASTDは毎年9000人以上が参加しており、その2割近くが米国外からの参加者である。参加者のプロフィールは、政府機関や企業体、あるいは軍隊や病院、国際機関でタレントマネジメントや組織開発に携わる方が最も多く、大学、研修会社、人材サービス会社に所属するコンサルタントやトレーナーがそれに続く。行政の立場から人に関わる政策立案に携わる方々にも何度か会う機会があった。みんな同じ費用を支払って参加している。
参加する主な目的は、自分の業務に関わる情報収集だけではない。タレントマネジメントの様々な領域に関するセオリーをキャッチアップする、新たなコンセプトを吸収する、自分の活動領域を広げる、新たな知り合いを求めネットワークを広める、といったことである。つまり、人事や人材開発のプロフェッショナルとしての研鑽と、自らのキャリア構築のために参加している方々が大多数なのである。
ASTD(ATD)のミッションと意義
ASTD(ATD)のミッションと意義 写真
別の見方をすれば、ASTDは人事や人材開発という職能の役割を高め、それに関わる方々の地位を高めるための営みであると言えよう。そしてASTDに集まる人が企業の人事担当であるか、ベンダーであるかに差異はない。タレントマネジメントのプロフェッショナルが確立するにつれ、人事担当とベンダーの間を彼らが行き来することへの違和感は少なくなっていくものと思われる。
私はもともと財務畑出身であるが、サイコム・インターナショナル(サイコム・ブレインズの前身)を設立して18年が経過するうちに、人事や人材開発の職能に強い愛着を抱くようになった。当社は採用方針として人事の経歴を特に重視しているわけではないものの、人材開発のプロフェッショナルであろうと日々研鑽している者を多数抱えている。そのような観点から、私はASTDのミッションを強く支持しており、当社としてASTDとの関わりをより深めて行きたいと思っている。
ASTD(American Society of Training and Development) は去る5月の年次総会においてATD(Association of Talent Development)に改名することを発表した。「Training and Development」が「Talent Development」に置き換わったことにそれほど意義を感じるわけではないが、「American」が取れたことは素直に喜ぶべきことと思っている。何故なら、人事や人材開発という職能の役割を高め、それに関わる方々の地位を高めるというこの団体の営みが、アメリカに限らずより普遍的なものであるという考えに沿うものだからである。