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小西 功二
サイコム・ブレインズ株式会社
ディレクター / シニアコンサルタント
研修の前工程・後工程…受講者への関与をどのように強化するか?
前回のコラムでは、『ITの進化により自己学習と相互学習が可能となる中、我々研修会社はいかにして価値を創出していくのか』という問題意識を提示させていただきました。今回はこうした研修会社に突き付けられた課題に対してどのような解が見出せるのか、私がATD2015で参加したセッションの内容をご紹介しながら述べたいと思います。
結論から先に申しますと、その解とは以下の2点です。
- ① 受講者の好奇心をかきたてるような、よりエキサイティングなコンテンツと、その提供方法を用意すること
- ② 効果的かつ効率的に学習が進む状態(学習環境を含む)をデザインすること
そして、我々のような研修会社がこの解を具現化するアプローチは、「研修の”前工程”と”後工程”に対して、これまで以上に積極的に関与していくこと」であると私は考えます。
「研修の前工程への関与」とは、具体的にどのようなことが考えられるでしょうか。
例えば企業内研修の場合、同じ研修に参加した受講者であっても、片や学習意欲が高く、常に実務への応用を考えて講師の話を聞こうとする人もいれば、片や『やらされ感』満載で、「どうせ机上の空論に過ぎない」と思いながら参加する人もいます。当然のことながら両者の間には研修後の学習効果に雲泥の差が出てしまいます。こうした受講者間にある学習意欲のばらつきを高いレベルで平準化できれば、クラス全体としての研修効果は高まるはずです。
そこで、集合研修の前工程で我々が各受講者に直接的にアプローチし、マインドセットを図ります。その際、地理的・時間的制約を越えるのがITです。具体的には全受講者へのメール送信による段階的なアプローチによって、受講者のマインドに働きかける方法があります。最近では教育にもゲームの要素を採り入れて、楽しみながら学習できる『ゲーミフィケーション』という方法論が注目されつつありますが、これを採り入れるのも一つでしょう。あるいはSNSを立ち上げ、講師が受講者に本質的な問いを投げかけて内省を促したり、あるいは受講者同士が悩みや課題を自由に共有して一体感を高めたり、集合研修で各々がフォーカスすべき学習項目を明確化したりする、といったアプローチの仕方も考えられます。
2日後、2週間後、2か月後…忘却を抑制するための”booster”
教育研修の分野において、脳科学に基づくアプローチはもはや目新しいものではなくなりつつあります。人間の脳の仕組みと照らし合わせて、今後ラーニングのメカニズムはますます解き明かされていくでしょう。写真は私が参加したセッションのひとつ。200人は入れるであろう会場は、世界中から集まった人々であっという間に埋め尽くされました。
それでは「研修の後工程への関与」はどうでしょうか。
後工程に関与する目的、それは「学習内容の定着と実ビジネスでの実践(これまでの行動をあらためること)を促進すること」に他なりません。皆さんの会社で行う研修でも、受講者に事後課題を課したり、一定の実践期間を置いてフォローアップ研修を実施したり、といったことはこれまでもあったかと思いますが、今後はより効果的で効率的な方法が求められそうです。例えば、脳科学の理論に基づくアプローチ方法です。
「エビングハウスの忘却曲線」をご存知でしょうか。
「人は学習後1時間で覚えたことの56%を忘れ、1日後には74%を、1週間後には77%を忘れてしまう」というものです。ATDで参加したあるセッションによると、この忘却曲線に基づいて学習者へのアプローチをデザインするのが効果的で効率的だというのです。アプローチの頻度は“2-2-2”、つまり「学習の2日後、2週間後、2か月後」がベストだとの主張でした。
セッションではこのアプローチのことを“booster”(打ち上げ用の多段式ロケットのこと)と呼んでいましたが、第一弾のboosterは受講者にたった数秒、学習内容を思い出してもらうだけで良いそうです。例えば、メールや電話による簡単な問いかけや4択程度のクイズなどが該当します。
第二弾のboosterは、学習内容についてもう少し主体的に思い起こさないと出てこないような穴埋め問題などが良いようです。そして最後、第三弾のboosterは、学習内容に対する受講者自身の考えを問いかけるものが良いようです。いずれにしてもテキストを読み返すような再インプットではなく、模擬試験を受けるようなアウトプットが効果的とのことです。