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太田 由紀
サイコム・ブレインズ株式会社
ファウンダー / プログラムディレクター 専任講師
「多様な人材を活かすことで競争優位に立つ」「人材の多様性がイノベーションを生む」――ダイバーシティ推進、あるいはダイバーシティ・マネジメントの説明として、このようなメッセージが発信されています。しかし、このような説明を自分の身の回りで起こる事象として、具体的にイメージできる人は果たしてどれだけいるでしょうか。女性活躍推進だけでなく、LGBTやシニア世代の活用など、様々なトピックが日々アップデートされる中で、自社の経営に資するダイバーシティとは何か、その本質をあらためて考える必要があるのではないでしょうか。今回は、技術経営を専門としながらダイバーシティの領域でも積極的な発信をされている、早稲田大学ビジネススクールの長内厚教授にお話を伺います。
「小さく変えるトレーニング」で、大きな変化・ピンチに備える
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長内先生にご監修いただいた「職場のジェネレーションギャップと無意識の偏見」の調査でも感じたことですが、今のいわゆる中間管理職が置かれた状況というのは、なかなかチャレンジングではないかと思います。管理職を経験していない、あるいは役職定年となった「年上の部下」もいれば、スマートフォンのような、それこそ「破壊的なイノベーション」が次々に起こって、そういうツールが当たり前にある環境で育ってきた若い世代もいて。
そのような中で、中間管理職の方が多様な価値観を持ったメンバーを活かす。生産性を高めながらも同時に「無駄を効果的に活用していく」ためには、どうしたらよいのでしょうか?
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「ピンチに陥ること」が重要かもしれません。ピンチはチャンスでもあって、組織や慣習を変えるときの一番大きな大義名分になります。「V字回復」という言葉がありますが、短期間に業績が回復するというのは、本質的な改革をせずに、将来の利益を先取りしていることの方が多い。一定期間のピンチの中で、改革改善を進めていく方が、企業にとっては長期的にはヘルシーではないかと思うんです。
たとえばシャープは今、すごくいい会社になったじゃないですか。台湾企業に買われて、「シャープはもう駄目だ」といわれていましたけど。経営者を代えなければならない。今までのやり方を変えなければならない。それをみんなが仕方なく受け入れつつも、面白いものづくりをする現場の良さは、そのまま残っていた。建築家の安藤忠雄さんが「大阪人の長所は楽観的なとろこで、短所は楽観的過ぎるところ」と言っていましたが、経営が危うくなっても楽観的過ぎてなかなか改善できなかったというのもありますが、同時に新しいものを取り入れていく素地も現場にはあった。だからこそ今のシャープにつながっているんだと思います。
- なるほど。もともとあった現場の文化が復活の要因でもあったのですね。一方で、研修で管理職の方と色々お話していると、無力感に近いものを抱いている方も多いように感じます。「どうせ自分なんて」「何かを大きく変えることなんてできない」という感じでしょうか。
- 大きく変えられないなら、小さく変えることでトレーニングをする、ということではないかと思います。普段見過ごしているような小さな問題とか、変えることに失敗しても大きな問題にはならないようなことから。小さな失敗は許されるじゃないですか。小さな問題で成功と失敗、両方経験しておいた方がいい。小さな成功体験を積み上げていけば、徐々に大きなことができるようになっていくと思うんです。
- 確かに、成果を出しているチームの管理職の方にお話を聞くと、本当に小さなことの積み重ねで、それもすごくシンプルな方法だったりします。ある方は、PCで16時にアラームをセットして、アラームが鳴ると「今日まだ話していない部下」を探して、必ず一言しゃべるのだそうです。「部下の状況を理解して把握しておくのがすごく大事で、これだけは欠かせない」と。小さなことですが、すごいですよね。