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西田 忠康
サイコム・ブレインズ株式会社
ファウンダー 代表取締役社長
極寒のモンゴルで確信したリーダー育成の本質(西田 忠康)
まだ11月中旬にもかかわらず、日中の気温はマイナス10度。遠目には砂漠に見える草原の表面は凍りつき凸凹としていて、極めて歩きづらい。
ウランバートルから70km離れた荒涼とした場所で2日間行われる『Leadership Journey in Mongolia』にオブザーバーとして招かれた。サイコム・ブレインズの顧問である八木洋介氏が会長を務めるIWNCが年に3回開催するもので、その目的は、自分の軸あるいは信条を認識し、リーダーとして何を実現したいのかを掴むことにある。
- 株式会社IWNC(http://www.iwnc.com/)
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ビジネスマンかつ冒険家であるアンソニー・ウィロビー氏によって1989年に創設。以来30年にわたりビジネスリーダーの「自分の軸」「自分をリードする力」に向き合い、独創的なリーダーシップ開発プログラムを展開している。アンソニー氏が世界の辺境の地での冒険で得た「I Will Not Complain(自分で決めた目標だから達成するまでは文句を言わない)」という教訓は、社名の由来になっている。
リーダーの育成は、ハイパフォーマーの育成と同様、あらゆる企業にとって最重要テーマである。ゴールを達成するためにはハイパフォーマーが必要であるが、リーダーなくしてチャレンジングなゴールを設定することはできない。しかし、そういったリーダーは、いわゆるリーダーシップに関する知識やスキルを学ばせるだけで育てることはできない。リーダーは、自分の軸(価値観)に立脚し、実現したい「何か」を掴むことで、その本領を発揮することができる。リーダーシップに関する知識やスキルは、それをもとに周囲に働きかけ、チームをまとめていくためのものだ。
● ひとり孤独に、そして仲間とともに、自分の想いを言葉にする
このプログラムの重要なポイントは、モンゴルの大自然の中、様々なワークを通して自己を内省し、その中で湧いてきた想い、人生・キャリアを通じて成し遂げたいことを「言語化」することである。漠然としたままでは自分がコミットできないし、リーダーとして人や組織に働きかけることもできない。この言語化のプロセスを支援してくれるのが、2日間の経験を共有する仲間である。雄大な景色が広がる山の頂で、宿舎のラウンジで、居室のゲル(遊牧民のテント)で、あるいは八木氏を交えて酒を酌み交わしながら、自分が大切にしていきたいこと、目指すリーダー像が具体的なストーリーになっていった。
● リーダーシップ宣言
2日間のセッションの締めくくりは、リーダーシップ宣言である。遠くを見渡す丘に登り、一人ひとり巨石の上に立って3分間の決意表明を行った。不思議なことに、ハードな2日間にも関わらず、誰もが爽快感と自信に満ちあふれていた。今まで何となくもやもやしていたものがきれいに吹き飛んだようであった。
● 何故モンゴルなのか?
企業の成長にはミッション・ビジョン・バリューが必要だというのは、常々いわれることである。しかし、これらが本当に必要なのは「企業」ではなく「人」である。最近の脳科学では、人は正しい「目的」を意識すると脳が活性化し、パフォーマンスが高まることが証明されている。そして組織がチャレンジングなゴールを達成するためには、「リーダー」が自分がありたいと思う「目的」を意識して、意思決定の「軸」を持ち、これらをストーリーとして周囲に語れることが必須である。そういう意味において、このLeadership Journeyは、リーダーシップ・スキルの研修ではなく、リーダーとなり得る人材を真のリーダーとならしめるためのきっかけ、八木氏が言うところの「通過儀礼」として有意義であると感じた。
それでは、何故モンゴルなのだろうか? 社内で行う負荷の高い研修やストレッチアサインメント、あるいは日本国内で同様なプログラムを行うのでは不十分なのだろうか?
これを説明する言葉は、「大自然に身を置く」、「非日常(容易には戻れない)」、「緊張感(リスクの認識)」の3つである。人間には大昔に命懸けで狩りをしていたときのDNAが残っており、それに近い状況に直面すると脳が活性化して、それまで意識しなかったことに気づいたり、未来を考えることができたり、学びが深まったりするのだという。逆に、これから何が起こるかすべて見通すことができる、あるいは予定調和が重視されている環境では、脳はダイナミックに働かないのである。
今回、八木洋介氏とIWNCの招待を得てモンゴルの大自然の中で経験した2日間は、リーダー育成の本質を再確認し、脳が活性化されることの効果を実感させるものであったと言えよう。