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宮川 由紀子
サイコム・ブレインズ株式会社
シニアコンサルタント
社会構造の変化を受けて組織を変革する。テクノロジーの進化によって個々人の働き方や学び方が変化する。人材が多様化して、リーダーのあるべき姿が変化する。昨今日本企業が取り組む「働き方改革」は、単に生産性の問題にとどまらず、まさにこれらの変化に組織としてどう対峙するか、という問題を投げかけています。2018年12月、台湾で開催されたATD 2018 Asia Pacific Conference & Expositionで日本企業から唯一スピーカーとして登壇した電通国際情報サービスの今村優之氏に、「チェンジマネジメントとしての働き方改革」への取り組みと、そこから得た様々な知見をお伺いします。
アジアにおける人材開発で、どのような「チェンジ」が起きているのか?
- 昨年の12月、ATDのAsia Pacifc Conferecnceが台湾で開催されました。そこで今村さんがスピーカーとして登壇されるということで、私も現地に行って参加してまいりました。まずは今村さんから読者の皆さんに、これまでの人事としてのキャリアをご紹介いただけますか?
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1991年にシャープに入社して、特に希望していたわけではないのですが、配属されたのが人事でした。最初は国内向けの評価制度の運用などを担当して、その後あらたにできた人事企画のセクションで仕事をしました。当時シャープは国内だけで3万人近い社員がいて、人事として携わることができる領域がどうしても狭く、これでは成長できないと思い、ご縁があって1999年に今の会社に入社しました。
電通国際情報サービスは、私が入社した当時、全社員で600人くらいだったでしょうか。上流から下流まで、人事労務のほぼすべてをやらなければいけないという環境で、これまでとのギャップも多少感じつつ、裁量労働制の導入など、制度の企画や改定に主導的に関わることができました。その後出向して、各グループ企業の管理業務を請け負うシェアードサービス会社の立ち上げの仕事をして、帰任したのが2012年。人材育成に関わり始めたのはそれからですね。
- 今村さんは、ATDのAsia Pacificに5年連続で参加されています。アメリカで毎年開催されるICE(International Conference & Exposition)に参加する日本の人事の方は年々増えていますが、Asia Pacificに参加される方はまだまだ少ないです。これには何かきっかけがあるのでしょうか?
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ICEのことは10年くらい前から知っていたのですが、英語だしお金もかかるし……と思ってたところ、たまたまAsia Pacificのことを知って。場所は台湾だし、値段的にも少し安いし、英語はまあなんとかなるかなと思って、初めて参加したのが2014年ですね。もちろんICEにもチャンスがあれば行きたいですが、個人的には「他の人が行かないところに行く」というところにドライブされるので。毎回日本の方は少ないですね。来ているのは教育系のベンダーで、我々のような企業の人事はほぼゼロです。
最初に参加したときに驚いたのは、おそらく台湾のHRの方だったと思うのですが、半数くらいが女性で、皆さん英語がすごく堪能で、マスターを持っていたり色々と勉強されている方も多くて、カンファレンスに関わる本気度も日本と大きく違う、ということでした。現地で知り合いになった方とご飯を食べていると、「今どんなことやってるの?」とかいろいろ聞かれるのですが、それが結構本質的な質問だったりして、すぐに答えられない時もあります。セッションを聞くことで収穫もあるのですが、毎年参加していると、オフラインというか会場の外での会話で気づかされることも多いですね。
- 私はICEには参加したことがあるのですが、Asia Pacificは今回が初めてでした。今回は全体的な傾向として、「テクノロジーが進化したことによって、働き方、そして学び方も変化していく中で、どのようにタレントを育成していくか?」といったテーマのセッションが多かったように感じました。今村さんは何か印象に残っているセッションはありますか?
- タイの方のIT人材開発に関するセッションが印象的でしたね。タイでは経済成長が頭打ちになっている中で、国家レベルでIT人材を育成する取り組みをしています。そこでは「Disruptive technology specialists」、つまり破壊的な尖った何かを創出できる人材、それなりに高度な技術を持った「High-quality software developers」、そしてそれ以外のアウトソースで対応する「Highly-skilled foreign ICT workers」……と、IT人材を3つのカテゴリで区分しています。また、「Disruptive」はシンガポールあるいは台湾、「High-quality」は韓国と日本といったように、それぞれのカテゴリで他国のIT人材をベンチマークとしています。ITの領域に限らず、今の日本はアジアの中でプレゼンスがそれほど高いわけではないとは思っていましたが、このような話を聞くと、「日本は完全にそういう位置づけなんだな」という現実を突きつけられた気がします。
- 私が参加したセッションでは、「ビジョンについて隣の人と話をしてください」みたいな場面で、若い女性と話したときに、「私はマネージャーになって、絶対にこれをしたい!」と自分のビジョンをしっかりと話すんですね。マイクロソフトの人事の方が登壇したセッションでも、終わった後にスピーカーのもとに参加者がたくさん集まって話をしていました。アジアでは意識が高くて、ガッツがあって、英語も堪能な人たちが人材開発に関わっていて、ATDのような場にも積極的に参加している。これでは日本のプレゼンスはどんどん下がるだろうな、というのは容易に想像できましたね。
- 過去のカンファレンスでは、台湾のIT系の省庁のトップクラスの人、それも結構若い人が発表していたり、それ以外の国の方々もたくさん事例発表をしています。今回はマカオの方がATD Awardを受賞していましたね。日本はまだ受賞したことがないそうですが。それでも毎年参加することで色々な気づきがありますし、アジアの状況を継続的にモニターすることで、自分たちのやっている取り組みの位置づけや意味を振り返ることができていると思います。