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田村 拓
青山学院大学 社会情報学部 プロジェクト教授 / 一般社団法人 EDAS(イーダス)理事長 / ニホンゴカンパニー株式会社 代表取締役 CEO
国、企業、個人。グレタさんの「怒り」は誰に向けられているのか?
SDGsとは、地球全体が抱える問題の中から自社が貢献すべきテーマ(マテリアリティ=重要課題)を選び、本業を通じて、あるいは企業が持つリソースを使って、解決に参画しようとする姿勢であり行動であると言えます。
現代はVUCA(ブーカ)の時代と言われています。VUCAとは、変動が大きく(Volatile)、不確実で(Uncertain)、複雑で(Complex)、そしてあいまいな(Ambiguous)、というアクロニム(頭の文字を連ねた言葉)です。企業の経営企画部門の人と話すと、最近は「中計(中期経営計画)がすぐに実態に合わなくなる」と言います。事業環境を徹底的に分析して、今後3年から5年の経営戦略を打ち出したとしても、VUCAの環境においては、たちまち前提条件が変わってしまうわけです。かつて、「ゴーイングコンサーン」といえば、短期的な利益を積み重ねながら事業を存続することを意味しましたが、現在のゴーイングコンサーンはそれだけではなく、SDGsという地球規模のイシューに紐づく課題に対し、企業が持つリソースを投じて行う直接・間接の貢献を意味するようになったと言えます。翻ってそれが各企業の持続可能性(サステナビリティ)へと続く道になるのです。
スウェーデン人のグレタ・トゥーンベリさんが、2019年9月にニューヨークで開かれた国連気候行動サミットで怒りの演説を行ったことを記憶しておられる方は多いと思います。気候変動問題について行動を起こしていないとして、各国首脳を非難したグレタさん。問題はリーダーでしょうか。リーダーを選んだのは私たちです。ならば、非難されるのは私たちでしょうか。私たちはこれまでどうしてくればよかったのでしょうか。またこれからどうするべきなのでしょうか。彼女の「あなたたちを許さない」という怒りは、誰に向けられているのか。SDGsの17のテーマには、各国の利害が衝突するものも少なくありません。自国の成長のために地球にダメージを与えたのは先進国であって、われわれがその影響で発展を阻害されるのはおかしい。そんな発展途上国の声も聞こえてきます。このようにSDGsには、国という単位だけでは解決が難しい問題が多数含まれています。
さて、2019年8月、米国の有力経済団体であるビジネス・ラウンドテーブルに注目が集まりました。米経済界は株主だけでなく、従業員や地域社会などすべてのステークホルダーに経済的利益をもたらす責任がある、という声明を発表したのです。30年以上にわたり、株主利益を最大化するための存在として米国型グローバリズムをけん引してきた米国経済団体の方針転換は、大きな意味を持つと思います。この声明には、ラウンドテーブルのチェアマンを務めるJPモルガン・チェースをはじめ、アマゾンやアップル、アメリカン航空などの最高経営責任者(CEO)など、180を超える米企業のトップが署名しています。SDGsは、地球全体の持続的な発展や開発に関わるテーマを企業が自らの課題として取り込み、多様なステークホルダーに利益をもたらすべく解決に向けて行動することで、企業自身のサステナビリティの実現を目指すことなのです。