コンサルタントと講師の裏話
第1回
<第1回>
ビジネスパーソンの英語習得の秘訣
ミスが怖い?ビジネスレベルじゃないと恥ずかしい? 初・中級者が抱える心理的ハードルを乗り越える!
グローバル人材に求められる要件の中でも、特に英語によるコミュニケーション力は欠かせないものです。 しかし、日本人ビジネスパーソンにとって英語をいかに習得するかという課題は、私が企業研修に携わるようになった10年前から変わらず存在します。 専門分野においてどれ程高いスキルを持っていても、「たかが英語、されど英語」。英語力が足りないばかりに、そのスキルを十分に発揮できないという残念な状況があります。
どうしたら仕事で英語が使えるようになるか?どのように学習するのがより効果的なのか? ――今回はサイコム・ブレインズのパートナーとして英語力強化の支援に携わる、猪俣講師と後藤講師にお話を伺いました。 同じ日本人として学習者の悩みと向き合っている講師とのトークからヒントを得て、日々の英語学習に役立てていただけたら幸いです。
自分が思うほど周りはミスを気にしていない。
間違ってもいいからとにかく発話量を増やす!
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加藤
本日は、社会人の英語力向上をご支援されている猪俣先生と後藤先生に、研修などで多くの受講者に関わっているご経験から、 日頃感じていることをお伺いしたいと思います。よろしくお願いします。
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猪俣 &
後藤よろしくお願いします。
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加藤
社会人が英語を学習する場合、仕事で使えるようになることを目標としている方が多いと思いますが、どんな課題があると思いますか?
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後藤
特に仕事で英語を使う場合、「間違えたくない」という恐怖心が、本来の実力を発揮したり相手と関係を構築する妨げになっていると感じることが結構あります。
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加藤
日本人の場合、精神的なバリアが課題だとよくいわれますが、どのようにしたら克服できるのでしょうか。 先生方は英語がネイティブの国で生まれたわけではないのに、英語を話せるようになっています。話せるようになるまでに、どんなステップを乗り越えできたのでしょうか?
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後藤
いわゆる英語を話せる人、英語を使って活躍している人でも、実は細かいミスをしています。でも、周囲はそんなことは気にしていません。 自分が話を聞く側だったら、小さなミスがあってもすぐに話してくれる人と、ミスなく話そうとするあまりに時間がかかる人ではどちらが良いですか?
外国の人が日本語のミーティングに参加している場面を想像してみてください。たとえ、その人の「てにをは」が多少違っていても、誰も責めないですよね。 むしろ「日本語でよくやっているな」と感心するじゃないですか。ビジネスの場だからといって、過度にセルフコンシャスになる必要はないのです。 むしろそのセルフコンシャスネスが邪魔になってしまうことがあると思います。そこに気がついて開き直れるかどうかが、最初のステップじゃないでしょうか。
話せるようになるには、口を開くしかないのです。聞いたり読んだりしているだけでは話せるようにはなりません。 特に初・中級者の場合、表現の質を高めるよりも、発話の量を増やすことが有効ではないかと思います。発話量が増えれば、当然ミスも増えます。 「ミスをしてしまうから話したくない」と考える人もいますが、発話の量を増やすことで結果意思の疎通ができれば、「ミスをした」という印象は意外と残らないものです。 ミスを恐れるあまり「あの人には自分の意見がない」というレッテルを貼られてしまう方が、ビジネスにとっては問題なのではないでしょうか。
英語の自分は今何歳?…
自分の分身をビジネスパーソンに
育ててあげる感覚で
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猪俣
私はよく「英語年齢」のお話をします。皆さん生まれた時から今まで様々な経験をして、ビジネスパーソンとして、それぞれの専門分野のプロフェッショナルとして活躍している。 その姿が実際の年齢の自分ですよね。ですが、「もし英語しか使えないとしたら、自分の年齢はどれくらいですか。」と聞いてみるのです。 そうすると、ほぼすべての方が「実年齢よりも低い」と答えます。中には「実際は40歳だけど、英語だったら小学生くらいかもしれない」と言う方もいます。
「現在のビジネスパーソンとしての自分」と、「英語だと子どものようなことしかできない自分」を同一視するのは、かなりストレスを感じますよね。 日本語なら楽にわかるのに、英語だとわからない、もう嫌だと思ってしまうわけです。 -
加藤
ビジネスパーソンとして期待されている姿と英語でできることにギャップがあるから苦しいのですね。
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猪俣
そうなんです。だから、英語を使っている自分のことは、日本語を使う自分と同一視しないで、「自分の分身」とか、「自分のエージェント」としていかに育てるか、 と考えると少し気持ちも楽になるのではないでしょうか。どこまで育てていけるかは、熱意と、小さい成功体験をたくさん積み上げて自信をつけていくことが重要だと思います。
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加藤
社会人の英語習得の大事なステップとして、後藤先生も猪俣先生もまずメンタル面、心の持ち方や考え方についてお話くださいましたが、研修の受講者から、 「自分の英語がビジネスパーソンとして適切かどうかが不安」という声をよく聞きます。この点についてはどうでしょうか。
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猪俣
この点については、日本語の場合に置き換えてみたらわかりやすいと思います。日本語でも、例えば、仕事で使うメール文の書き方は、中学や高校では学びませんよね。 「忘れました。」ではなく「失念しておりました。」、「ごめんなさい。」ではなく「大変申し訳ございません。」といった表現は、就職活動や新入社員研修など、社会人になる準備段階で習得したのではないでしょうか。 逆に、友達とSNS上でやりとりするときは、大人であってもビジネスメールのような表現は使いませんよね。母国語でもシチュエーションに合わせて表現を使い分けているわけです。
英語も同じで、ビジネス英語はより難しいとか、ビジネス英語が話せるから英語力が高いのではなく、要はビジネスで使われる表現を知っているか、知らないかの問題なのです。 たとえ英語力がそれほど高くなくても、定型的な表現を多く知っていれば、ビジネスにふさわしい表現をすることができます。日常会話よりビジネス上の会話の方が、むしろ定型表現が多いように思います。 -
後藤
ビジネス英語に対して自信がないとか、不安を感じる理由は、圧倒的なインプット不足だと思います。 日頃から人が書いた英語のメールを読むとか、英語の会議で他者の発言を聞くという機会が多ければ、「こういうシチュエーションではこんな表現を使うんだな。」とか、 「こういう時はこの単語を使うのね。」という経験が積み重なり、猪俣先生がおっしゃる定型表現のデータベースが頭の中に構築されていきます。 このデータベースがあれば、英語で文章を作成するときに、過去に聞いたり読んだりしたことがある表現、データベースにある表現と照らし合わせて適切かどうかを判断できるので、不安を解消することができます。
しかし、残念ながら多くの方は、日常の仕事の中でデータベースを構築できるほど十分なインプットの機会がありません。インプットがなければ不安に感じるのは当然です。 ですから、いかに日常英会話ではなく、ビジネスシーンにおける英語のインプットを増やすか、それが社会人の英語学習の鍵だと思います。