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マレーシア、インドネシアの状況から東南アジア全体を考える

勝 幹子 Mikiko Katsu
勝 幹子サイコム・ブレインズ株式会社
執行役員 / シニアコンサルタント
去る2020年6月25日、サイコム・ブレインズではオンラインセミナー「異文化から読み解く ニューノーマル時代の東南アジアでの人材マネジメント」を開催いたしました。本セミナーは、複数か国から同時にスピーカー・参加者が参加する、弊社としては初めての試みでした。私、勝は、東京から、サイコム・ブレインズ・インドネシア代表のリンタンはジャカルタから、弊社パートナー講師のエイブラハム氏はクアラルンプールからそれぞれモデレーター、スピーカーとして参加し、インドネシア、マレーシア国内の現在のコロナ禍の状況や、今後考えられる課題と対処法などについて、それぞれの視点から語りました。 本ページでは、イベント当日に反響が大きかった話や、寄せられたご質問、そしてそれらに対する考察を交えながらレポートいたします。

「異文化から読み解く ニューノーマル時代の東南アジアでの人材マネジメント」イベント概要はこちら

感染抑え込みに成功しているマレーシアと、難航するインドネシア

セミナーでは、まず、インドネシア、マレーシア各国のコロナの状況および人々の反応、リモートワークの実施状況をレポートしました。地理的に近く、またイスラムという共通の宗教を国民の大部分が信仰している両国ですが、コロナの拡大および対応状況には大きな違いがあるようです。マレーシアでは厳格な政府による統制が功を奏し、感染者の抑え込みに成功していている一方で、インドネシアでは政府と地方自治体の足並みが揃わず、また、人々がそこまで事態を深刻に受け止めていないことが原因で、なかなか感染拡大が止まらず、行動制限が解除されたとたんに、街の中心部に人があふれていると報告されました。

宗教・文化的価値観からコロナ下のマネジメントを考える

次に人事的な課題として以下のテーマについて、エイブラハム氏、リンタン、両スピーカーの考えを語ってもらいました。
  • 1.
    人々の不安とそれに対する人事として、企業としての対応方法 リンタンによると、不安や困難な状況への人々の向き合い方には宗教観が深く影響しているそうです。マレーシア、インドネシアでは、何事も神様の思し召しであるとか、自分の運命を受け入れる、といったイスラムの信仰に由来する考え方が人々の根底にあり、例えば、コロナの影響で、会社側が賞与カットや待遇面の調整をしなければならないときでも、きちんと誠実に状況を説明すれば「これも運命ならば仕方がない」と納得する人が多いようです。そのため、コロナで刻々と変化する状況にも、人々は比較的柔軟に気持ちを切り替えながら、対応できるのではないかということでした。
  • 2.
    リモートワークが増える中でどのように効率を維持し人々を管理するのか エイブラハム氏によると、集団における連帯を重視するマレーシア、インドネシアの人々は、仕事上の人間関係も非常に大切にしているそうです。そのため、コロナによる社員の不安を解消し、また、リモート環境下で社員に高いパフォーマンスを発揮してもらうためのアドバイスとしては、普段から上司は部下とプライベートな話も含めた十分なコミュニケ―ションをとり、良好な人間関係を構築しておくことが重要ということでした。また、社員が会社に対して高い帰属意識・愛着を持ってくれるようなイベントを継続的に企画することも、社員のパフォーマンス向上に有効だということです。この話に対し、セミナー参加者の方からは「日本以外の国で、会社への親しみが重要になるとは知らなかった」「現地の人々はクールで、むしろプライベートな話はしてはいけないのかと思っていた」というような感想があり、意外に思われる方も多かったようです。これは、実は国民文化の観点からも説明ができることで、マレーシアも、インドネシアも、いわゆる「集団主義」の強い文化であるといわれています。

「新しい生活様式」を従業員に守らせるためにはどうすればよいのか

人々の「集団主義」の強さについては「コロナ対策のために、ソーシャル・ディスタンシング、換気、マスク着用、お祈りアイテムの持ち込み禁止などのルールを従業員に守らせるにはどうすればよいのか」といった課題を解決する上でもヒントになります。 インドネシア現地で働くリンタンに話を聞いてみると、業務中はきちんとルールを守るが、休み時間になると、非常に近い距離でマスクを外しておしゃべりをしたり、同じ器からお菓子を食べたり、暑いからと換気をしない・・・といった人々の行動を見かけることがあるそうで、日本と比べ、従業員に「新しい生活様式」を前提としたルールを徹底させることへの難しさがあるようです。このような事柄への対策方法として、エイブラハム氏とリンタンの両名から提案された内容を3つご紹介いたします。
  • 1.
    家族・チーム・会社へのリスク・影響を訴える 「集団主義」の強い文化の人々に対しては、家族・チーム・会社といった「集団」に結び付けて、リスクや影響を説明することが有効。自分が感染したら、家族や職場のメンバーにうつるリスクがあること、自分ひとりではなく、チーム全体、家族全体、会社全体に迷惑がかかるかもしれないことを説明し、意識させると、納得してもらいやすい。また、厳格なルールの背景には、会社として社員を家族のように大切に思っており、社員全員に健康な状態でいてほしいという理由があることを伝える。
  • 2.
    グループ活動の実施 「カイゼン」活動のように、社内の意識を向上させる小グループ活動を実施する。グループの中で、輪番で監督担当を受け持ち、担当者は自グループのメンバーがルールを守っているかの確認・報告をおこなう。社員全員で、お互いを監視しあい、担当者になる経験をすることで、ルール順守の意識を高めることができる。
  • 3.
    社員に尊敬されている「影のリーダー」に発信してもらう マレーシアやインドネシアの会社では、役職・ポジションとはまた別に、社員から尊敬されている影のリーダーのような存在がいることが一般的。このような人物の力を借りて、ルールを守るようプレッシャーをかけてもらうと良い。

東南アジア各国の人々の行動を読み解くカギは「集団主義」の強さ

さて、コロナ禍でのマレーシア、インドネシアの課題や対策についてみてきましたが、他の東南アジアの国々においても、これまでお話ししてきたようなことが当てはまるのかどうか、疑問に思われた方もいらっしゃると思います。 先ほどマレーシア、インドネシアは「集団主義」の強い文化である、というように説明しましたが、この「集団主義」というのは、「ホフステードの6次元モデル」という文化の違いを数値で示すフレームワークで使用されている言葉です。その国の人々が「個人主義か集団主義か」という文化的な特徴を数値化し、日本、マレーシア、インドネシアの他に、タイ、ベトナム、フィリピンも加えた6か国で比較したグラフが以下になります。 グラフ上のスコアが高い国がより「個人主義」、低い国がより「集団主義」の文化的傾向を持つ国です。日本が46と他国と比較して高い数値(個人主義)を示し、その他の国々は14~32と日本より低い数値(集団主義)を示していることがわかります。「集団主義」の文化に関係する人々の行動および留意点は、程度の差はあっても、東南アジア諸国の全体的な傾向として当てはまりそうだ、と言えるでしょう。
日本と東南アジア諸国との比較

現地情報と理論を活用することで、人々の行動を予想し、対策することができる

今回のオンラインセミナーでは、マレーシア、インドネシアの二か国をつなぎ、直接現地の状況を聞くことができましたが、このような現場の生の声や情報といった一次情報の入手が難しいことも多くあると思います。そのような場合には「ホフステードの6次元モデル」のような理論や数値を用いることで、現地の人々の思いや行動を、予測してみることが可能です。次に起こることがなかなかわからないニューノーマルの時だからこそ、現場の情報と理論の両方を組み合わせて、未来を想像したり、対策を立ててみたりすることが大切なのかもしれないと実感したセミナーでした。
  • 勝 幹子 Mikiko Katsu
    勝 幹子Mikiko Katsuサイコム・ブレインズ株式会社
    執行役員 /
    シニアコンサルタント
    上智大学外国語学部、一橋大学大学院国際企業戦略研究科卒業。 電機メーカーの人事部勤務ののち、ソフトウェア開発のベンチャー企業にてアライアンスを担当。国内外のビジネスパーソンともっと自信をもって渡り合えるようになりたいと、一橋大学大学院国際企業戦略研究科(MBA)に入学。多国籍な仲間と切磋琢磨しソウル国立大学への留学も経験。サイコム・ブレインズに参画後は多国籍な参加者向けの研修や海外体験研修の企画の立ち上げに携わり、インドネシア拠点の設立と運営を担当。最近では異文化マネジメントの講師や組織文化に関するコンサルティングでも活躍。海外出張に行けない昨今では、毎朝のジョギングや早めの就寝など健康的な生活習慣の継続に注力。鎌倉出身で将来の夢は海辺に住むこと。