レポート

2019.12.24

企業カルチャーを変えたい、そのための議論に必要なこと ―The Culture Factor 2019 Conference レポート①

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勝 幹子 Mikiko Katsu
勝 幹子 サイコム・ブレインズ株式会社
執行役員

組織の文化を「数字にする」ことで見えてくること

今回の銀行のケースように、「法令順守」はきっちり実行したい、でも今までのしきたりやビジネスにとらわれずに柔軟な発想もできるようにならないと生き残れない…と考える企業は、金融業界に限らず多いはずです。しかし、ホフステードの組織文化モデルを使って考えると、この2つは相反する価値観であるとわかります。

このモデルを活用して、それぞれの次元について中間を50として
0~100の数値で組織の現状をオンラインサーベイで診断したり、
今後の目標とする文化を設定します。

組織文化を数値化する6つの次元のうちの一つ、「仕事の規律(厳格か、ゆるやかか)」という次元で考えてみましょう。この次元のスコアが低い組織は、「明るくリラックスした雰囲気で親しみやすい」「自由な発想が生まれる」「日常業務に限らずフレキシブルに組織のために働く」という特徴がある一方で、「コスト意識が薄い」「規則を厳格にとらえない」といった側面もあります。反対にこの次元のスコアが高い組織の場合は、「計画通りに進める」「規則を遵守する」「コスト意識が高い」一方で、「自由な発想は許されない」「決まった業務にしか取り組まない」という特徴があります。

つまり、「法令順守」に重きを置こうとすると、おのずと「柔軟な発想ができない」組織になり、逆もまたしかりなのです。このジレンマに対してどのような解決策が示せるのでしょうか?

このセッションでは2つのパターンが示されました。1つ目は低くもなく高くもない「中間のスコアを目指すこと」、2つ目は「部門ごとに目指すべき文化を変えること」です。たとえば今回の銀行の場合、より法令順守の大切なリテール部門は「仕事の規律」の目標スコアを高めに設定し、柔軟な発想による商品開発が大切な投資部門は低めに設定する。実は大きな組織においては、文化は部門ごとで違うほうがよいことがあるのです。銀行以外では、たとえば自動車メーカーの工場は、同じ品質の製品を多く生産することが大切なので、「仕事の規律」のスコアは高いほうがよいですが、最先端の車を開発するR&D部門の場合は、従来のやり方にとらわれない発想が大切なので、この次元のスコアは低いほうがよいでしょう。

さらにこのセッションでは、「一人の社員に二つの違う文化で働かせるには?」というテーマも扱われました。マトリックス組織やチームプロジェクトが浸透しているヨーロッパならではの課題です。これに関しては、たとえば「曜日を決めて違う部署に行く日を分ける」とか、「創造的な仕事をする場所と規律正しい仕事をする場所を物理的に分け、インテリアを変える」などのアドバイスがありました。人間は時と場合を見ながら違う組織文化にある程度適応することはできるので、その切り替えをうまく行うことができるようにサポートしてあげる、ということでした。

「文化」という目に見えない現象を数字を使って表現すると、今までどう表現してよいかわからなかったものが興味深いディスカッションの種になり、見過ごしてしまいそうなエピソードが文化の違いの表現としてイキイキと面白く見えてきます。世界中から来た同じ興味を持つ者どうし、尽きることのない話を楽しんだ3日間でした。

ヨーロッパらしく、クリスマスの装飾では多色よりも
統一感を大切にしているシックなものが目立ちました。

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