対談

2017.04.03

「ウチの会社の営業は特殊?」 ― コンサルタントと講師が語る、営業研修の裏側

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内藤 高史 Takashi Naito
内藤 高史 サイコム・ブレインズ株式会社
シニアコンサルタント
「ウチの会社の営業は特殊?」

様々な企業から受講者が集まる公開講座と違い、企業内で研修を実施する場合は、事業戦略や対象者が抱える課題など、様々な要素に応じた内容が求められます。特に営業研修については、「ウチの会社の営業は特殊だから、一般的な内容は合わないのでは?」「同じ業界の営業を経験した講師はいませんか?」といったお話を、企業の研修担当者の方からよくお聞きします。「企業内教育としての営業研修」において、コンサルタントや講師には、公開講座とはまた違ったチャレンジが課せられています。今回は、サイコム・ブレインズのコンサルタントの内藤、そして営業研修の人気講師である東川勝哉氏が、これまで提供してきた研修を振り返りながら、営業研修の舞台裏について語り合います。

人間関係の構築とコミュニケーション…営業としての普遍的な課題

東川 勝哉 氏
東川 勝哉 氏
株式会社ホロスプランニング/長崎オフィス所属
大学卒業後、医薬品卸業の営業職を経てソニー生命保険株式会社へ転職。7年半ライフプランナーとして勤め、社内コンテストを多数受賞、またMDRT(世界百万ドル円卓会議)登録を果たす。2005年に株式会社ホロスプランニングに加盟登録し、2006年に株式会社キーストーンプロジェクトを設立し代表取締役に就任。また、ライフプランナー時代から学んだコーチングから営業活動におけるコミュニケーションの重要性を見出し、コーチングの手法を使った行動を促すセンスを身につける。現在はファイナンシャルプランナーとしての活動の他、大手企業の営業研修を中心に講師としても活躍中。主な担当研修は、営業スキル研修、マネジメント研修、コーチング研修など。
  • 内藤 高史
    東川さんがHPCの講師ライセンスを取られたのが確か2006年でしたので、あれからもう10年以上たつんですね。
  • HPC ®
    Hearing「聴く」Proposing「提案する」Closing「約束する」の3要素を核とする、サイコム・ブレインズによる営業スキル体系。現在、様々な業種の企業において、課題解決型営業・コンサルティング営業の強化を目的とした研修プログラムとして採用されている。
  • 東川 勝哉氏
    早いですね…。10年もたてば、当時新入社員だった受講者も役職に就くでしょうし、中堅の方で幹部になる人もいるでしょう。それくらいの時間を、内藤さんに色々教えを請いながらやってきたんですね。
  • 内藤 高史

    教えるなんてとんでもないです(笑)。私が担当するクライアントの研修でも、いつも本当にお世話になっています。

    今回は、東川さんが営業研修の講師としてこの10年で得た知見といいますか、私のようなコンサルタントとはまた違った視点からのお話を伺いたいと思います。まずはこのウェブサイトをご覧の方に、東川さんのバックグランドを簡単にご紹介いただきたいのですが。

  • 東川 勝哉氏
    大学を卒業してから7年間、医薬品卸業の会社で営業をしていました。学生時代は名古屋で過ごしたのですが、就職では地元に戻りたいと考えていて、九州の福岡に本社がある会社に入りました。仕事はいわゆるルート営業で、1日15件くらい、お客様である病院のドクターに訪問して、その中で近々開業しそうな先生の情報を聞きつけると、アポイントを取って会いに行く…といった感じです。
  • 内藤 高史
    お医者さんのような高度に専門的な方が相手だと、営業も難しいというイメージがありますが?
  • 東川 勝哉氏
    ドクターの中には個性的な方も多かったですし、本来の仕事ではない雑用的なこともお願いされたりと、大変なこともありましたが、喜んでくださるのが純粋に嬉しかったですね。基本的には「NOと言わない」スタンスでやっていたと思います。それによって商品の納入につながることはないのですが、すごくかわいがっていただいて、たとえば異動で担当エリアが変わるときに「あそこには○○先生がいるから、よろしく言っとくよ」とおっしゃっていただいたり。そのおかげで次の担当先でも営業がしやすくなって、結果として業績につながっていたと思います。
  • 内藤 高史
    その後、ヘッドハンティングされてソニー生命に転職されるわけですが、フルコミッション(完全歩合制)の営業の世界へ飛び込むことに不安はなかったのでしょうか?
  • 東川 勝哉氏
    実はちょうどその頃に長男が生まれて、おまけに家も建てたところでしたから、最初は誰ひとり賛成してくれませんでしたね(笑)。ただ当時の私としては、「見たことがない世界に行ってみたい。自分がどこまでやれるかチャレンジしてみたい」という気持ちの方が強くて、ありがたいことに私の妻だけが最終的には賛成してくれました。
  • 内藤 高史
    実際に新しい世界に飛び込んでみて、いかがでしたか?
  • 東川 勝哉氏

    1年目はそれなりの業績で、転職前より収入も増えたのですが、2年目に入って仕事にも慣れてきたところで、お客様とのアポイントが少なくなって、当然数字も下がっていきました。原因はアポイントの数だけではなくて、「営業スキルに難あり」だったんです。

    「NOと言わない」というスタイルは、若いからこそ功を奏した部分が大きくて、そこからさらに成長するには、それだけでは通用しません。それにHPCでいえばP(提案)中心のコミュニケーション、つまり保険の内容だけを語っても契約はお預かりできません。そもそも「保険なんて必要ない」と思っている人たちに保険を提案するわけですから。「お客様の話をしっかり聞いたうえで、ニーズを喚起していかないとダメなんだ」ということに、本当の意味で思いを強くしたのが2年目でした。

  • 内藤 高史

    私は前職でマンション管理会社の営業を経験したのですが、お客様はマンションの管理組合の理事会の方々で、50代・60代の方ばかりでした。当時20代の若造だった私としては、そういった方たちとどうやって人間関係をつくるか、ニーズの理解も含めてどのようにコミュニケーションを取ればよいか分からず、悶々としていたことを思い出します。

    思えばその頃から、不動産知識の研修だけじゃなくて、HPCのようなコミュニケーションの悩みに応えてくれる研修ってないのかな?と潜在的に思っていたんですよね。それが今や、仕事として研修に携わっているわけですから不思議です。

  • 東川 勝哉氏
    そのお話、はじめて聞きました。こんなに長く付き合っているのに(笑)。仕事をする中で、営業に限らず人間関係とかコミュニケーションって、一番考えたり悩んだりするところですよね。営業の世界でもこれからAIとか新しいテクノロジーがどんどん出てくるのでしょうけど、そういう課題って普遍的なものだと思います。

「東川さんだからできるんでしょ?」…ネガティブな受講者とどう向き合うか?

東川 勝哉 氏
  • 内藤 高史
    現在、東川さんは保険の営業と並行しながら研修講師をされています。東京・大阪を中心に全国を飛び回って非常にハードだと思うのですが、その中でも講師をやり続ける原動力って、何でしょうか?
  • 東川 勝哉氏
    原動力というよりは、「目の前の課題をなんとかしなきゃ」という気持ちの方が強いですね。名だたる企業の研修で講師をさせていただくので、毎回緊張感がありますし、立ち居ふるまいや言葉づかいはもちろん、気づきを与えるとか、受講者をモチベートするとか、納得感を持たせるとか、やるべきことがたくさんありますから。まずは研修を実施する企業の意図するところを理解して、内藤さんが作ったプログラムのねらいから逸脱せず忠実に…ということを心掛けています。
  • 内藤 高史
    コンサルタントとしては、もちろん研修前に様々なことを想定しますが、その日の受講者のテンションが低いとか、プログラム通りに進まないとか、講師が現場で対応すべきことって、結構ありますよね。
  • 東川 勝哉氏
    そうですね。グループの中でリーダーシップをとる人がいるかどうか、研修に対して後ろ向きな人がいないかどうか、そういったことを見ながら場の調整をして行くことは必要です。もちろん、私ひとりではすべてを把握できないので、内藤さんとのチームプレイは不可欠です。
  • 内藤 高史
    後ろ向きな受講者のモチベーションを少しでも高めるという意味では、研修冒頭の自己紹介って、かなり重要だと思います。
  • 東川 勝哉氏

    HPCのスキルでいうところの「能力開示」ですよね。特に営業研修の場合は、講師がどんな経歴でどんな実績があるか、受講者は気になると思います。テキストに書いてあるプロフィールで実績もアピールしますが、それによって「それは東川さんだから、あなただからできるんでしょ?」という反応にはならないようにしなければなりません。

    私は営業でそこそこの結果を残してきたと思いますが、先ほどお話したように苦労もしましたし、ときには慢心してうまくいかない時期もありました。そういった話も自己紹介に織り込みますし、「今日の研修でしっかり学んで、現場で実践して、試行錯誤すれば、必ず身につきますよ!」ということをお伝えするようにしています。

  • 内藤 高史

    研修を受けるからには、何か一つでも持ち帰って欲しいですよね。中には嫌々ながら研修に来た人もいるかもしれませんが、せっかく会社が研修という機会を用意してくれて、しかも営業の稼働を止めて来ているわけですから。

    東川さんの自己紹介は、受講者に対する熱意がストレートに伝わるので、聞くたびに「凄いな!」と思います。もう何百回と聞いてきたので、「またこのネタで来たか!」と思うこともありますが(笑)。

  • 東川 勝哉氏

    内藤さんにそう思わせないことが、最近の課題ですね。「たまには違うことも言えるんだぞ!」っていう(笑)。

    ただ最近思うのは、若手の受講者がだんだん年齢的に遠くなっていくわけですよね。講師を始めたのが38歳。今は48歳ですから「お父さんと同い年だ!」という受講者もいると思います。なので10年前と同じノリじゃあもうダメかなと。

  • 内藤 高史
    最近の若手社員って、以前と比べて何か違いますか?
  • 東川 勝哉氏
    若手社員といっても、会社ごとでカラーが違うので一概には言えないですね。ただ、昔は休憩時間に質問に来る受講者がたくさんいた会社でも、最近は減ったなと感じることもあります。以前は「この研修で何かを掴んでやる!」という気持ちが顔に出てギラギラした感じの人って、クラスに必ず何人かはいたのですが、今は全体的にみんな真面目でおとなしい気がします。
  • 内藤 高史
    そういうときって、受講者に対するアプローチを変えたりするのですか?
  • 東川 勝哉氏
    彼らとしては聞きたいことが全くないわけではなくて、きっかけを待っている人もいるんですよね。「どう?理解できていますか?」と聞くと「まぁ、なんとか。あの…質問していいですか?」って。クラス全体としてあまり積極性が感じられないときは、私から受講者に近づいて声をかけたりしています。
  • 内藤 高史
    本当は疑問を解消したいのに、自分からコミュニケーションを取れないのは、どうしてなんでしょうね。スマートフォンとかSNSとか、そいうツールに普段から頼っているからなんでしょうか。
  • 東川 勝哉氏
    それはあると思いますね。答えをすぐ求めたがるというか。研修で出てくるキーワードだったり、私が話したことでわからないことがあると、休憩時間にスマホで調べているんですよね。会社の営業ツールとしてタブレットが支給されている場合もあるのですが、私としては直接質問しに来て欲しいので、「スマホで見ないで遠慮なく聞いてくださいね」って研修の最初に伝えています。

ウチの会社の営業は特殊?…不安をポジティブなものに転換する

内藤 高史
  • 内藤 高史
    コンサルタントとして営業研修をご提案する際に、「ウチの営業は特殊で、外部の方にお願いできるかどうか…」とか、「業界経験がある講師でないと…」といったお話をされる方もいます。東川さんは講師として、受講者からそういった反応を受けることはありませんか?
  • 東川 勝哉氏
    研修の序盤ではありえますよね。私の自己紹介の仕方とか、テキストにプロフィールをどう書くかにもよると思うのですが、そこで保険営業の経験を中心に言い過ぎると、少し斜に構えた態度を取る人も中にはいます。
  • 内藤 高史
    それは、業界が違う講師に対する不信感の表れなんでしょうか?
  • 東川 勝哉氏

    不信感とまではいかなくても、何かしらの先入観はあると思います。でも、私はそういう反応はむしろウェルカムですね。最終的に「どんな業界・商材でも、顧客とのコミュニケーションとはこういうことなんだ」と気づいてもらえたら、先入観とのギャップが大きい分だけ、納得感も大きいと思います。

    もちろん研修で関わるからには、その企業や扱っている商材について事前にできる限り勉強します。その一方で、HPCを中心として我々が研修で伝えたいのは、「特定の業界や商材に精通している」ということではなくて、「合意形成のプロセスって、お客様の心理状態からこうなっているんですよ」ということなので。

  • 内藤 高史

    おっしゃる通りですね。この10年を振り返ると、そういったことに対していかに気づいて腹落ちしてもらうかが、研修プログラムを作るうえでのキーになっていたんだと思います。HPCという考え方についても、以前は「もっとお客様の話を聞かなきゃいけないんだ」「ニーズを理解せずに提案してもダメなんだ」という気づき自体が新鮮だったんですよね。

    一方で、今やそういうコンサルティング営業的なものって、実践できているかどうかは別として、考え方としては当たり前になりました。研修担当者の方にHPCの価値を評価していただいた分、期待値も上がって、コンサルタントにとっても講師にとっても、研修の難易度がだんだんと上がっていったように思います。同じHPCでも「ウチの会社では、今の戦略がこうだから、もっと具体的な形にして、営業社員に落とし込みたい」っていう感じで。

  • 東川 勝哉氏
    内藤さんが担当されている企業でも、そのようなリクエストにお応えされているケースがありますね。顧客の経営課題、事業課題のヒアリングから入って、それをどう自社の商材と結びつけるか、具体的な営業プロセスやコミュニケーションのパターンを、内藤さんと事務局であらかじめ作り込んでから研修をしましたよね。
  • 内藤 高史

    経営とか事業とか、上流のところからのヒアリングって、最初は受講者から「こんな話を聞いてどうなるんですか? ただの雑談じゃ営業にならない」という反応が出ましたね。営業が一番聞きたい商材の話を聞かされてもお客様は面白くないですし、かといって関心のある経営とか事業のことを聞けば相手は話すかもしれないけど、営業としてはそこからどうすればよいかわからない。

    この「わからない」という状態を放置しておくと、HPCが現場で活かされるどうかは、結局属人的な能力によるところが大きくなってしまう可能性もあります。難しい課題でしたが、この研修によって私たちも大いに学んで成長することができたのではないでしょうか。

  • 東川 勝哉氏
    まぁ、この件に限らず内藤さんの仕事は緻密ですよね。プログラムづくりとか、講師に対するディレクションとか。
  • 内藤 高史
    いえいえ。でも一方では、そういう緻密さに縛られない講師も演じて欲しいんですよね。
  • 東川 勝哉氏
    どちらもお応えできるよう精進いたします(笑)。これからもよろしくお願いします。年齢的に考えて、講師としてこれからは営業マネージャーとか、管理職向けの研修の機会も増えていくと思うので、これまでとは少し違ったアプローチも引き出しとして持つ必要があるのかなと思います。見た目だけじゃなくて、語っている内容が伴ってこないと。
東川氏と内藤氏

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