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鳥居 勝幸
サイコム・ブレインズ株式会社
ファウンダー / プログラムディレクター 専任講師
研修担当者の課題認識や想いとは裏腹に、「研修なんて仕事の役に立たないよ」という現場の声を聞いたことはありませんか?
研修プログラムは、そのような両者のギャップを埋めながら、学びと仕事の橋渡しをするものでなければなりません。仕事における問題を解決する。これまで以上の成果を出す。そんな研修を実現するために、裏方として日々プログラム開発に励むコンサルタントがいます。今回はサイコム・ブレインズの鳥居が、コンサルタントの宮川・内藤とともに、「仕事につながる研修づくり」の裏側を語り合います。
「受講者の意識外」 のところまで理解できないと、 いいプログラムってできないよね
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- 今日はよろしくお願いします。
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- よろしくお願いします!!
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- ふたりは同じ大手金融会社でホールセール、リテールと、違う部門を担当しているわけだけど、このお客様の仕事をしているときに、何を大切にしてますか?あるいはどんな価値を提供してますか?
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- 私の場合は、価値と言ってしまうとちょっと違うかもしれないんですけど、どんな研修でも受講者に必ず提供したいと思うのは、「知識」、「スキル」、それから「気づき」ですね。研修の中で実践レベルまでもっていくのは難しいですが、仕事上の問題を「知識やスキルを得ることによって解決できるんだ!」、という気づきを得て欲しいですね。
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- なるほど。内藤さんは?
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- スピードと質の両立ですね。
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- さすが!根っからの営業だよね(笑)。ちなみに質ってどういうこと?
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- 研修担当者のご要望に応える、プラス私なりの考えをもって、価値を一つでも二つでも加えて提供していく…といいますか。例えば、研修では受講者に「あ、これ明日から現場で使いたいな!」って思わせるプログラム。研修の場であっても、既に現場を意識させるようなものを提供したいですね。そう思ってもらうために、たとえ学習内容が同じだとしても、伝え方を毎回考えます。講師との打ち合わせも入念に行いますし、研修中も講師・受講者の様子に常に気を配っています。
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- 内藤さんの仕事を見ていて思うんだけど、内藤さんって、お客様のことすごく好きですよね。
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- 唐突ですね(笑)。でも、確かに好きですね。
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- 私は内藤さんのレベルではないかもしれないけど、でも担当するお客様のことは、やっぱりすごく好きですね。だから悩みを抱えた研修担当者や真剣な受講者を見ていると、その企業の商品とかを使いたくなったり、それ以外のブランドは買いたくないと思ったりしますね。ファンの心理に近いかな。好きになる、ファンになることで、おのずと研修についても「もう少し、こういうふうにしたら、もっと良くなるんじゃないかな?」というように、アイデアも浮かびやすくなる気がします。
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- 確かに、「好きになる」というのはキーワードですよね。好きな相手のことはよく知りたいと思いますし、よくなって欲しいと思いますから。
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- 先日も担当者の方とお話していたんですが、提案のためだけの情報をいただくのではなくて、いろいろなお話を、たとえばある受講者の方について、「あの方その後どうですか?今、どんな感じになっていますか?」みたいな話をして。他の企業だとRFPの情報だけを頼りに提案、という場合もありますが、それだと背景とか、本当のところでどういうものが欲しいのかとか、そういうのは分からないじゃないですか。
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- そうですね。
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- でも、関係性ができてくると、RFP以外のところでいろいろ教えていただけるし、私自身も研修の案件以外のところでも普段からいろいろお聞きしたいと思うし、相手もそのように思ってくださる。
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- なるほど。好きになると対話が生まれて理解力が深まる。プログラムに対しても、より深いところまで考え始める。でも、それは必ずしも受講者の現在の悩みだけじゃないよね。受講者の意識外、というか将来的な潜在ニーズみたいなものまで酌み取る、みたいな。
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- 「受講者の意識外」って、例えばどういうことですか?
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- 仕事を取り巻く環境って、変わっていきますよね。例えば今はそれほど求められていない英語力がいよいよ必須になる、チームが多国籍になる、上司とのコミュニケーションも変わる…。目の前の研修ももちろん大事だけど、まだモヤモヤとしながらも変化の足音は聞こえているから、そういう変化に皆さんが対応できるように、担当者とはそういうモヤモヤした話もしていきたいです。それができると、目の前の研修に対する考え方も少し違ったものになるというか。
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- 見えていないものを、対話で見えるようにする、そんな感じですかね。そこからプログラムが深化すると。
スキル研修が、組織の課題に気づく場に変わった
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- そういえば、宮川さんが担当している大手商社のファシリテーション研修、あれなんかは確かにファシリテーションのスキルの研修なんだけど、結果的に実際の仕事の会議のような場になったよね。仕事だけでなく、組織の文化にも関わるような議論まで出たし…。
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- その研修を実施した背景はなんですか?
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- その研修を実施したのは、全社のIT環境を整備したり、社内からの様々な問い合わせに対応したりする部門なんです。研修実施のきっかけとしては、部門に関してのサーベイをしたところ「連帯感がない」という結果が出たことと、あとは会議の時間が長いとか、ダラダラやっているとか、そういう問題もあった。それで部長が以前、鳥居さんが講師をした研修を見て高く評価していただいたこともあり、会議をうまく進めるための「ファシリテーション研修」をやろう、ということになったんです。
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- なるほど。まずはファシリテーションのスキルを、ということだったんですね。
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- 研修では、サーベイ中の特定の項目をピックアップして、それを題材に会議のファシリテーションの演習をしたんだけど、結果的にそこでいろんな組織の課題がどんどん上がってきて、それを皆で話し合う、みたいな研修になったんです。加えてお互いの立場とか役割とか、仕事に対する考え方とかを理解しあう場にもなったし。だからファシリテーションのスキルを身につけるということだけでなく、いろんな相乗効果がありましたよね。
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- もはやあれを「研修」と呼んではいけないような気がするよね。仕事そのものを語る会議というか、加えてもっと大きな視点から自分たちの組織を振り返るような会議。ああいうこともあるんだな。
「研修の中」よりも、「組織の中」で学習が進むようにしたい
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- 最初の大手金融会社に話を戻すと、最近特に印象深かったのが、内藤さんが担当した案件。あれは研修という形をとりつつも、「営業のやり方を抜本的に変えよう」という、10年がかりの大きな変革を目的としたものですよね。
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- はい。これはすごく端的にいうと、営業を課題解決型に変えようという話です。例えばお茶を売るとして、今までは「このお茶どうですか?」って売っていたんだけど、そういう売り方はやめて、「今、どんな時間を過ごしたいですか」「だったらお茶よりもコーラがいいですね」みたいな感じです。
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- 超端的(笑)。簡単に聞こえるけど、それが大組織となるとそれは大変なことですよね。
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- そういう変革をしようというのに、実は研修はたった一回、一日だけなんだよね。
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- そうなんです。ただ我々が担当者と一緒に注力したことは、現場で実践とか振り返りとかを促していくための仕組み、例えば拠点で使うテキストだったり、映像教材だったり、上司や本人が進捗をモニターするためのフォーマットだったり、そういうものを現場に実装していくことでした。
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- さっきのファシリテーション研修の話とも共通するんだけど、私たちが顧客に提供しているものは、単に「研修」でもなければ、あるいは「研修とその後をフォローするツール」でもない。表面上はそうなんだけど、言ってみれば「どうしたら組織の中で学習が進むようになるのか?」ということを考えて、その方法を提供している…ということなんじゃないかな?
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- まさにそうだと思います。そして我々は「そのための黒子として、組織的な学習を応援します」っていうスタンスで仕事をしていますね。もともとそうあるべきなんですけど、近年はますますそういうスタイルの仕事になっています。
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- そういう仕事って、ある程度長いスパンで組織を見ていないとできないことでもあるよね。
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- そうですね。今の話を聞いて思ったんですけど、「デザイン思考」っていう言葉があるじゃないですか。「このニーズがあるからこれをどうぞ」だったところを、「こういう人たちがいて、その人たちの様子をじっくり観察して、どうやら彼らが望んでいるものはこれなんじゃないかな?」と仮説を立てて、試行錯誤しながら価値を提供していく、っていう考え方。「仕事につながる研修」をつくるのは、まさにデザイン思考ですよね。
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- デザイン思考、よくぞ申した(笑)。
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- となると、今後は人や組織を観察する力がもっと必要ですね。「お客様大好き!」だけじゃやっていけないかも(怖)。
「仕事につながる研修づくり」について語り始め、「受講者の意識外」「組織の中の学習」といったキーワードを発見した3人。トークはさらにこのテーマを深掘りしてきます。後編をお楽しみに。