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太田 由紀
サイコム・ブレインズ株式会社
ファウンダー / プログラムディレクター 専任講師
⼥性活躍推進法の施⾏からまもなく2 年。⼥性管理職や候補者層の育成、あるいは職場全体への啓蒙など、様々な取り組みがなされる中、企業によるダイバーシティ推進は、実際のビジネスにどれだけ貢献できているでしょうか。また現状として⽇本では⼥性活躍にフォーカスが置かれているものの、近年ますます関⼼が⾼まるLGBT など、ダイバーシティ推進担当者は様々な対応が求められています。⾃社におけるダイバーシティ推進の本来の⽬的は何か。そして将来に向けてどのようなビジョンを描くのか。あらためて考えるべき局⾯に来ています。今回は「Diversity & Inclusion Evangelist」として様々な企業におけるダイバーシティ推進、企業ブランディング、コーポレートカルチャーの変⾰を⽀援する蓮⾒勇太⽒にお話を伺います。
⽇々の中で感じていた「⽣きづらさ」を解消したい……男性としてダイバーシティの価値を伝えることの意味
- 現在、蓮見さんはダイバーシティを軸に企業のビジネスやブランディング、あるいは企業文化の変革といったテーマで活動されています。ご自身のお仕事を「Diversity & Inclusion Evangelist」と表現されていますが、これにはどんな意味が込められているのでしょうか?
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「エバンジェリスト」というのは、もともとキリスト教を布教する「伝道師」という意味ですが、最近ではITやテクノロジーの会社にエバンジェリストという職種があります。テクノロジーがどんどん高度化する中で、自社の技術や知見がどう役に立つのか、どんな価値があるのか、クライアントや広く市場に伝える。それがエバンジェリストの仕事です。
私が個人で仕事をするにあたって、「私の価値って何だろう?」と考えたときに、まずは企業でダイバーシティの実務者であったこと。大学院でダイバーシティ・マネジメントの研究をしたアカデミック・バックグラウンドがあること。そして日・英のバイリンガルで欧米の最先端の事例や日本でのベストプラクティス、その両方お伝えすることできる。ダイバーシティの価値を伝導していきたい、自分ならではの仕事を創りたいという思いで仕事をしていたところ、「エバンジェリスト」と自然と呼んでいただけるようになりました。
- こういったお仕事をされているのは、日本ではやはり女性が多いというイメージです。男性である蓮見さんがこのテーマに関心をもって、ご自身のお仕事として取り組むようになった背景を教えていただけますか?
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きっかけとしては、私が日々の中で感じていた「生きづらさ」みたいなものを解消して、自分らしく生きたいなと思ったことですね。
キャリアのスタートは、日本の航空会社で人事の仕事でした。その中で、航空業界には男女の役割期待というものが根強く残っていることを、身をもって体感しました。たとえば太田さんがオフィスに座っている。そこにお客さまが来て、太田さんが女性というだけで「スッチーですか?」と平気で聞く方もいるんです。男性である私が「航空会社で働いてます」というと、「パイロットですか?」と聞かれることはあっても、「スッチーですか?」とかは聞かれない。人事の面でも、フライトアテンダントの女性が「セールスがしたいです」といっても「いや、あなたは客室部門で入ったから…」となる。
そんなときに「これって、おかしいのではないか? 性別に基づく区別はやめるべきなのではないか?」と思い始めて。当時はダイバーシティ推進みたいな肩書はなかったのですが、オフィスにお客さまがいらっしゃったときに、女性だけがしていたお茶をいれる当番を、男性もするようにしたんです。
- そのときの周りの反応はいかがでしたか?
- 男性社員からは、「なんで僕がしなきゃいけないの?」みたいな反応はありましたね。でも「なんで女性だけがするんですか?」というと、ぐうの音も出ないので「ああ、確かに」と理解はしてくれました。お客様からは、「男性がお茶を入れるって、新しいね!」と喜んでくださる方も結構多かったですね。
- 「男性もお茶出しをしましょう」と女性の側から提案しても、なかなか受け入れてもらえない雰囲気があるように思います。もちろん蓮見さんのお仕事ぶりやご人徳もあるかと思いますが、男性である蓮見さんから提案したというのが大きかったのではないでしょうか。
- 当時は他にも色々と意見を出していましたね。たとえば空港支店長を誰にするかといったときに、24時間営業ではない空港だと、「夜カウンターを閉めるのに、女性では危険なんじゃないか?」という話が必ず出るんです。そこで「日本でそんな命の危険って、ありましたっけ?」「本当に支店長の要件を満たしている人は誰?」といった議論をして。その結果、日本で初めて女性の空港支店長が誕生したんです。私が男性としてジェンダーの壁を壊すことができたことで、達成感もありましたね。
- 「女性だから支店長になれない」というは、いわゆるアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)だと思います。そこに気づけるかどうかが大きいと思うのですが、蓮見さんはなぜ気づけたのでしょうか。
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今でこそダイバーシティを仕事にしていますが、私自身は保守的な家庭で育ちました。父は公務員、母は主婦です。父は「男はこうあるべき、女はこうあるべき」といった感じで、家族を守るという意識も強い。そんな父の勧めで中学から大学の付属校に入ったのですが、敷いてくれたレールに乗っていることが心地よくもあり、一方で「お前は蓮見家でこうあるべき」「男は大黒柱であるべき、だからこの分野を勉強すべき」といった「べき論」に窮屈さも感じていました。
そんな中で、大学では海外からの留学生と交流する機会が多くあって。彼らから「なぜ日本は女性が働かないんだ?」と疑問を投げかけられたり、「もう少し自分のやりたいことに忠実になったほうがいい」といわれたときに、自分は今まで「べき論」の中で生きていたけど、「確かにそれっておかしいな」と気づく瞬間があったんです。
- 留学生の方とご自身の違い、まさにダイバーシティの中で視野が広がっていったということなんですね。企業におけるダイバーシティ推進に対する理解も、そういった気づきから生まれるのものだと思います。