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小西 功二
サイコム・ブレインズ株式会社
ディレクター / シニアコンサルタント
大手企業を中心にリモートワークが浸透する中、上司と部下の1on1ミーティングの機会が増えています。育成手段としての1on1の有効性はコロナ以前から注目されていましたが、リモートワークへの強制シフト・オンライン面談の普及とも相まって、ますます一般化した感があります。
一方で、1on1ミーティングを運用する企業様や個々の管理職の方々と接していると、リモートワーク下でプロセスが見えなくなった分、部下をマイクロマネジメントするために1on1を実施しているのでは?と思われるような状況をよくお見掛けします。その結果、上司部下ともに「1on1疲れ」しているのではないかと懸念しています。
今回のコラムでは、今ますます注目される1on1について、成功のために重要となるポイントとスキルをあらためて整理すると共に、リモートワーク下ならではの留意点を解説いたします。
部下の主体性を外発的に植え付けようとする矛盾
前編では、上司たちはコーチングを行っているつもりでも、実際にはできていない、“なんちゃってコーチング”が1on1の現場で起こりがちであることについてお話ししました。その理由のひとつは、上司が部下の主体性について思い違いをしていることです。今日の会社組織はすべての従業員に主体性を求めます。VUCA時代のビジネス環境においては、第一線の実働部隊が状況適応的に素早く意思決定し、行動することが正攻法であり、その実現には個々の社員が自律的に行動する力、すなわち「主体性」が不可欠だからです。そのような中、多くのマネジャーが「部下から主体性を引き出すためにはコーチングが必要だ」と考えます。
しかしながら、主体性とは、果たして他の誰かから「引き出される」ものなのでしょうか。「主体性を持ちましょう」と組織が従業員に、あるいは上司が部下に命じたその瞬間に、主体性は失われるのではないでしょうか。先に述べた“なんちゃってコーチング”が横行する背景には、主体性を外から植え付けようという矛盾や、間違った意気込みが隠れている気がしてなりません。
言わずもがなですが、主体性とは部下本人が育むものであり、あくまで上司はそのサポート役です。そして、主体性は仕事の意義が感じられてこそ初めて育まれるものではないでしょうか。だとすると、マネジャーがコーチングを通じて部下に問いかけるべきは、「部下本人にとっての仕事の意義」だと思います。
もう一つの理由として考えられるのは、やや辛辣な表現をするならば「マネジャーの傲慢さ」です。自分の意に沿った解が部下の口から出てきた時にだけ、「これこそがコーチング」だと満足し、意に沿わない解が出てきた時は、否定あるいは無視をして、自分の意に沿う解が出てくるまで問いかけを続ける、というような状況です。果たしてこれはコーチングと言えるのでしょうか。回りくどいティーチングに過ぎないと私は考えています。
ここで補足をしておきたいのが、私はティーチングのアプローチを否定しているわけではないということです。ティーチングをコーチングだと思い違いをしながら、日々、部下との1on1を繰り返すマネジャーの危険性を指摘しています。部下の立場で考えてみたらどうでしょうか。本来、部下が仕事の意義・面白さを見つけだし、エンゲージメントを高めるチャンスであるはずの1on1が、上司の顔色を伺うだけの場になってしまい、部下のやる気は損なわれてしまうことでしょう。日常的に1on1が実施されるリモートワーク下において、誤ったコーチングによる離職率の上昇、ひいては企業の競争力低下を懸念しています。