座談会

2021.07.28

人事の仕事がリモートになって、分かってきたこと ~コロナ禍があったからこその「人事としての軸」(前編)~

  • b! はてぶ
今矢 敦士 Atsushi Imaya
今矢 敦士 サイコム・ブレインズ株式会社
コンサルタント

個人の自律は当たり前。変化の中で自分や周囲をどうドライブするか?がよりハイライトされた1年だった

  • 江島 信之
    先ほど、講座をきっかけに人事としてのご自身の考え方を再認識した、外部の受講者や講師陣から変化や影響を受けた、というお話がありました。コロナ禍でリモートワークが進んだ1年間も、企業や働く人たちにとっていろいろな意味で「きっかけ」になった1年だったと思います。皆さんが、この1年を振り返っていただいた時に、ご自身の人事としての仕事に影響を与えるような、自組織や社員の変化に、どのようなものがあったか共有していただけますか。
  • 岡本 弘基
    当社はITのSaaSベンダーであり、システム上、リモートがフルでできる状況はコロナ禍の前からありました。そのため、コロナ禍になったから、リモートワークだから、という理由での人事ミッションへの影響はありません。ただ、一方ではちょっと変わったと思うことも二つありました。一つはコロナ禍でオフラインでの研修ができなくなったことで、集合研修がすごくやりづらくなりました。オフラインでは80~100人で研修ができたのが、オンラインでは30~40人が限界です。それに、リモートワークに切り替わった当初は、オンラインで利用できる付箋やホワイトボードの機能を我々が使いこなしておらず、アイデア出しのディスカッションも難しい。そういった様々な制約ができました。

    もう一つは、新入社員が何に関して困っているのか、わかりにくくなったことです。以前は、オフィスで新入社員が不安そうな顔をしていると、そこを察して上司が声を掛けていたのですが、オフィスにいないと察することができない。こういったコミュニケーションの課題をどうしたらよいか、現場も人事も試行錯誤していた1年だったと思います。
岡本 弘基 氏
  • 谷 圭一郎
    私は昨年、全世界のシニアのポジションに、同一の基準でグレードを測定する取り組みを人事部の同僚と一緒に行ってきました。当時は、コロナがここまでの勢いではなかったため、グレーディングのためには、国外拠点への出張が絶対に必要だと話していました。ところが、そのうち渡航ができなくなり、アメリカ、シンガポール、ヨーロッパの全拠点リモートでやってみようか、という話になりました。実際やってみたら、組織図も画面で映せるし、オンラインのグレーディング・ツールを使えば、国外のコンサルタントにも参加してもらえる。結局リモートでできるということに気づきました。フィジカルじゃないとできないと思い込んでいたことが、コロナ禍をきっかけに、実はできると気づけたことは大きかったですね。

    同時に、リモートになって感じるのは、指揮命令権で、管理統制的なところを重んじたマネジメントでは人が動かなくなるということです。上司と部下の信頼関係を見直して、個々が自分自身をどうドライブしていくのかに着目していかないと、組織として生産性が上がりづらくなっていることに気づいたかなと思います。毎日決まった時間に出社するという前提が失われ、何を自分の支えにして仕事に向き合い、どう自分のリズムを作るか、ということを一人ひとりが考えなければいけなくなっている。こうしたことは、以前から当たり前だった話ではありますが、リモート化でよりハイライトされたように思います。また、そこに対して人事としてどう働きかけていくのかも重要になってきていると感じています。
  • 高尾 千香子
    当社では、コロナ以前から一人ひとりが自律する文化があったので、コロナになったから社員の自律のために会社として何かしなければ、ということはなかったと感じています。ただし、どの程度自律しているかといった度合いには個人差があると思います。また、自律はできていたとしても、仕事のやり方は人それぞれです。リモートワークが自分のやり方に合っている・合っていないというところからくる差は、顕著に出てきたと思っています。リモートワークだから自分でやっていこうね、と言われた時に「よしきた、チャンスだ」と思える人はいいのですが、何がどのように変わるのだろう、と立ち止まってしまう人や無理をしてしまう人もいるでしょうから、そういう人には誰かが声をかけてあげなければいけません。コロナ禍をきっかけに、マネジャーや人事が、社員一人ひとりに合ったテーラーメイドの働きかけや後押しをしなければいけなくなったと感じています。また、自律に向けた制度が先か、個人の内発的なものからくる自律が先かは、両方が重要だと思っています。例えばマネジャーが自律を支援する上で1on1ミーティングを日々やっていく仕組みを作ることも大事ですし、その仕組みの上で、社員も「自分が自律することで、もっと楽しい世界があるんだな」と自ら気づいて行動を変えていくという両側面が必要だと思います。

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