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小西 功二
サイコム・ブレインズ株式会社
ディレクター / シニアコンサルタント
営業パーソンであれば誰しも数字責任を負っています。数字責任は年間の売上目標額として課されている場合もあれば、利益目標額の場合もあるでしょう。目標数字が利益額の場合、原価をコントロールする裁量が与えられていれば粗利益額、営業経費までコントロールする裁量が与えられていれば営業利益額かもしれません。いずれにしても営業パーソンは目標数字の達成を目指して日々活動しています。
ところで、数字の進捗は日々管理されるものではありますが、数字だけを眺めていても、営業活動の良し悪しは見えてきませんし、どこを改善すればいいのかも分かりません。そこで、目標数字の達成に結びつく指標として、ブレイクダウンされたKPI(Key Performance Indicator)が設定され、管理されることになります。ところが、せっかく設定されたKPIが必ずしも適切でなく、日々KPIの進捗について上司や本社からうるさく確認される割には、本丸の数字は一向に上がってこないという例は、残念ながら枚挙にいとまがありません。あるいは、無数に設定されたKPIに翻弄され、疲弊する営業パーソン、いわば『KPI地獄』に陥っている営業部隊が世の中には数多くあります。本コラムでは、真に数字の達成という成果に結びつくKPIの設定方法について、あらためて整理すると共に、KPIを活用した営業マネジメントの在り方について提言します。
まずは理解しておきたい、成果を上げるための2種類のKPI
あらためてKPIとは、Key Performance Indicatorの略語で、「重要業績評価指標」と訳されることが多いようです。一方、KPIとよく対比されるのがKGI=Key Goal Indicatorで、「重要目標達成指標」と訳されるようです。 KPIがプロセスを管理するための指標で、KGIが結果を管理するための指標と考えれば分かりやすいでしょう。ここで重要なことは、KPIはKGIと密接に関係しており、KPIが向上すれば、必ずKGIも向上するという関係性になくてはいけない、ということです。悪いKPIの設定例を言うと、「それはKPIではなく、KGIですね」というパターンと、「KPIはたくさん設定していますが、いずれもKGIの向上につながらないものですね」という2パターンがあります。では、KPIとKGIの関係性を具体例で見てみましょう。
自動車販売店の営業パーソンを例に考えてみましょう。販売台数がこの会社のKGIだとすれば、販売台数につながる重要な営業活動を管理するための指標がKPIとなるべきです。この場合のKPIの一例としては、「試乗人数」が挙げられます。なぜなら試乗もせずに高額な自動車を買う顧客は実際には稀ですし、試乗を通じて車の魅力を体感した顧客の大半は、「購入したい」という気持ちが高まるからです。従って、試乗人数というKPIをどんどん上げる営業パーソンは、受注件数も多いはず、という関係が成り立っているわけです。
ところでKPIには「活動の量を管理するKPI」と「活動の質を管理するKPI」の2種類が存在します。先ほどの試乗人数をこの考え方に照らしてさらに分解すると、試乗のお声がけをした顧客数、すなわち「お声がけ」という営業活動の「量」と、お声がけに対して実際に試乗してくれた顧客人数を割合で示した数値、すなわち「お声がけ」活動の「質」に分けられます。この場合、活動の質が高いというのは、お声がけのタイミングが絶妙で、お誘いのトークも巧みで、声を掛けられたお客様がどうしても試乗したくなる、ということです。そもそもお声がけする相手の選び方が適切である、ということも関係しているかもしれません。いずれにしても、試乗に誘導する、その成功確率が高いということです。
さて、同じだけのKGI達成を目指す場合、活動の質が高い人は活動量が少なくて済みますが、活動の質が低い人は活動量を増やす必要があります。ここで、活動量を増やして目標達成を目指すか、活動の質を上げて目標達成を目指すか、という2つの営業アプローチが生まれます。営業パーソンをマネジメントするマネジャー側からみれば、活動量を上げてもらうべきか、それとも活動の質を上げてもらうべきか、営業活動の支援とマネジメントの在り方に違いが出てきます。