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太田 由紀
サイコム・ブレインズ株式会社
ファウンダー / プログラムディレクター 専任講師
2022年6月、改正育児介護休業法が施行され、産後パパ育休制度の創出に加え、企業が自社従業員の育休取得を支援することが義務化されました。国内における男性育休の認知が急速に進みつつある一方で、実際の取得日数は3日~1週間程度に留まるケースも少なくありません。これまで、多くの日本企業では、男性従業員が中長期間休業することが想定されてきませんでしたが、企業の持続的発展に欠かせない条件として従業員の心身や社会生活の充実が重視されるようになる中、この前提は変わりつつあります。今回は、当社の男性従業員が育休を取得した社内事例として、取得者の今西孝志と上司の江島信之にインタビューをおこない、企業におけるWell-being(※)実現の手掛かりを探りました。
後編では、今西へのインタビューを紹介します。
「Well-being(ウェルビーイング)」とは、身体的・精神的・社会的に良好であることで、生きがいや働きがいを感じながら、人や社会とよい関係を築けている状態を表します(株式会社保健同人フロンティアWebより)。
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今西 孝志
サイコム・ブレインズ株式会社
コンサルタント -
太田 由紀
サイコム・ブレインズ株式会社
取締役専務執行役員
仕事から離れることや、上司からの反応に対する、漠然とした不安があった
- 育休期間を振り返り、まずは率直な感想をどうぞ。
- 子どもの成長・変化を間近で見られたことはとても幸せでした。顔つきが日々変わっていったり、日に日に身長も体重も伸びたり、変化をみられることは楽しいし、嬉しかったです。その変化を、妻と共有できたことも貴重な経験だったと思います。
- お子さんの誕生がわかった当時、なぜ育休を取得しようと思いましたか?
- パートナーから「一緒にいてほしい」と要望がありました。育児を一緒に経験してわかってほしい、自分事化してほしい、という気持ちを伝えられました。また自分としても、子供の成長を見たい、という気持ちがありました。このタイミングでしかできないことですし。
- 取得を考えた際に迷いはありませんでしたか?
- パートナーの妊娠が判明したのが、ちょうど「営業って面白いな」と思っていた頃だったので、迷いがなかったかと言うと嘘になります。育休をとると、自分の顧客を他の人に渡すことになるので。35歳で一定期間仕事から離れることについて、キャリア的にどうなのかと、漠然とした不安やためらいを持ちました。また、休職による収入不安もありましたが、計算をして、3~4か月の休みなら問題ないと分かりました。
- 上司に取得意思を伝える際、心理的ハードルはありましたか?
- 「95%大丈夫、受け入れてくれるだろう」という、上司への信頼がありつつも、漠然とした不安はあったので緊張しました。
- そうですよね。伝えた時、上司の反応についてどう感じましたか?
- 「良かったやん」と全肯定してくれて、前のめりで喜んでくれたことが嬉しかったです。上司からするとチームの戦力ダウンになると思うのですが、その素振りを見せず、ただただ「嬉しい」と言ってもらえました。
- なるほど、それは嬉しかったですね。同僚など、周囲の反応についてはどうでしたか?
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人により温度感の違いはありましたが、基本的には「良かったね」という反応でした。特に、育児経験のある人たちは向こうから声をかけてくれて、味方が増えたような気持ちになりました。あと、嬉しかった反応としては、「いなくなるとちょっと不安です」と言ってもらえたことですね。
NOTE:「育休取得にまつわる不安」を分析する…取得者が行うこと①
育休取得を考え始めた時に、様々な不安があるのは普通のこと。まずはこれらの不安を、例えば「取得可能日数・減収額とその補完・人事評価などのハード面」と、「育休を取りにくい雰囲気・職場への気兼ね・自身の存在感が薄れることへの恐れ・キャリア不安などのソフト面」などに分けて分析してみましょう。
ハードに関する不安は、法律・会社の制度・現在の収入額などを、自身で調べたり、人事部門等に確認することで明確になり、対策を立てやすくなります。
ソフトに関する不安は、性別役割認識から生じるアンコンシャス・バイアスによることも多いようです。まずは不安の根拠を明確化し、その根拠が思い込みではないか、情報を集め分析することが大切です。