コラム

2018.03.20

ダイバーシティが自立型人材を育てる

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太田 由紀 Yuki Ota
太田 由紀 サイコム・ブレインズ株式会社
取締役
ダイバーシティが自立型人材を育てる

何のためのダイバーシティ?…組織の中で疑問が生じていませんか?

「202030」をかけ声に多くの企業が取り組む女性活躍推進ですが、一歩一歩着実に成果を積み重ねる企業が増えている一方で、「女性活躍推進を前面に出すと社内の反発が強く、なかなか理解を得ることができない」という企業もまだまだ多く存在します。

これは「デモグラフィ型ダイバーシティ」という性別・国籍・年齢など目に見えやすい属性の多様性を進める過程でよく起きる現象です。たとえば女性と男性、非日本人と日本人、若者と年配者、というように目に見える属性でカテゴライズすると、組織内がカテゴリで分断されやすく、ともすれば対立の構造が生まれがちであるためです。

しかし、女性活躍推進に限らずダイバーシティに本気で取り組むのであれば、この分断や抵抗を乗り越えなければなりません。そしてこのような困難な状況を乗り越えるためには、自社においてダイバーシティを進める目的や期待される効果を共有する必要があります。何のためにダイバーシティを実現するのか、です。

もちろんダイバーシティに真摯に取り組む企業のトップの方は、例外なくダイバーシティを進める目的を定め、それを自社の経営戦略に掲げています。しかしダイバーシティがなぜ経営戦略にあげられるのか、腑に落ちていない社員の方々が多いと常々感じています。

私見ではありますが、「ダイバーシティが進むとともに、自立型人材に成長していくメンバーが増えるであろう。これがダイバーシティの大きな効果であり、会社がStrong Companyへと脱皮する大きなきっかけとなる」と考えます。

多くの日本企業は、「多様性の尊重」のパラダイムにある

早稲田大学大学院商学研究科教授/谷口真美氏は著作『ダイバシティ・マネジメント』の中で、ダイバーシティ・マネジメントを「人材のダイバシティを用いてパフォーマンスを向上させるマネジメント手法である。そのために多様な人材を組織に組み込み、パワーバランスを変え、戦略的に組織変革を行う」と定義したうえで、ダイバーシティに対する企業行動には次の5つのパラダイムがあると述べています。

1つ目のパラダイムは「抵抗(違いを拒否する)」です。多様性を拒否する状態です。このパラダイムにある企業はだいぶ少なくなってきましたが、業種や部門によっては、多様性の必要性を認識していない・認めていないところが残っているようです。

2つ目のパラダイムは「同化(違いを無視する・同化させる)」です。この段階では、前述のデモグラフィ型ダイバーシティが課題になることが一般的です。多数派の属性の特性に、少数派の属性をなかば無理やり同化させようとする圧力が働きます。

一時期「チャック女子」という言葉をよく耳にしました。男性社会の中で生き抜いている女性について、「外見は女性だが思考回路は男性と同じ、女性の着ぐるみを着ているようなもの」と、なかば揶揄する形で表現したものです。しかし強い同化圧力を受けながら女性の思考回路を活かして組織の中で生き抜くのは非常に困難なことであり、チャック女子に「男になるな」と言う前に、組織が変化する努力をすべきであろうと考えます。

3つ目のパラダイムは「尊重(違いを認める・尊重する)」です。少数派の比率が増える・あるいは少数派の特性が徐々に発揮されるにつれ、特性の違いや良さに互いが慣れ、受け入れることができるようになる状態です。現在の多くの日本企業の状況は、この段階に足を踏み入れ始めた段階であると思われます。

この状況がうまく進行すると、メンバーは徐々に、互いの「男性」「女性」などの目に見える属性をあまり意識しなくなり、むしろ目に見えにくい、経験・知見・価値観の違いを意識し、認め、受け入れることができるようになります。これを「タスク型ダイバーシティ」と呼びます。

自分とは違う経験・知見・価値観に触れ、認めることができるようになると、視野が広がり、物事をより広く深く考えるようになります。また多様な人材が意見をぶつけ合うことで、新たな発想・知恵が生まれます。これが4つ目のパラダイム「分離(違いに価値をおく)」です。

こういった動きの中で、多くの人が自分の意思をより強く持ち、それを表明しようとし、自発的に考え決めて動くことを望むようになります。ここまで人材が成長すると、長期的かつ全社的に違いを活かし、そこから生まれた発想・知恵がイノベーションを起こし、競争優位につながるようになるのです。この状態が5つ目のパラダイム「統合(違いを活かし、多様性を競争優位につなげる)」の段階です。つまり、企業におけるダイバーシティの本来の目的を達成することが可能になるのです。ダイバーシティ・マネジメントが進むとともに、人材が自立型に変化し、それにより企業活動に好影響を与えるようになります。

VUCAの時代に求められるのは「強靭な組織」とそれを支える自立型人材

現代はVUCA (Volatility=変動性・不安定さ、Uncertainty=不確実性・不確定さ 、Complexity=複雑性、Ambiguity=曖昧性・不明確さ)の時代と言われます。VUCA下においては、20世紀型の規律型組織、つまり一部の人が作った効率的な仕組みを多くの人で迅速かつ正確に稼働させるための組織では、生き残ることが難しくなります。求められるのは予測のつかない変化にも柔軟に、迅速に対応できる組織です。ただ「強い」だけではなく、「強靭」であることが求められます。強靭な組織とは、どの方向から強い風が吹いても、しなやかに柔軟に対峙し、粘り強く生き延びてゆく組織です。

そして強靭な組織を構成する人材も、予測のつかない変化に柔軟に、迅速に対応できる人材です。自分の意思を持ち、表明し、決めて動ける自立型人材です。もちろんそのためには個々の意思決定の軸となる理念・方針が共有されているとともに、一定の権限を委譲されていることも必要です。

このような組織と人材をつくるための手段として、ダイバーシティ・マネジメントは非常に効果的です。組織や人材を変容させることは、何か大きな転機でもない限り困難です。ダイバーシティ・マネジメントをきっかけに、たとえば一時期、あえてデモグラフィ型ダイバーシティを強力に進めることが目に見える大きな転機になりうると考えます。

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