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対談

2019.05.14

ダイバーシティ・マネジメントとは、ビジネスで得をするための「無駄の管理」である ―早稲田大学ビジネススクール 長内厚教授に聞く (前編)

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太田 由紀 Yuki Ota
太田 由紀 サイコム・ブレインズ株式会社
取締役専務執行役員

「得するLGBT」に込めた意味

  • 太田 由紀
    日本で「ダイバーシティ」が誰もが聞いたことがある言葉になったのは、ここ10年くらいでしょうか。女性活躍推進法が施行されたのが2016年で、多くの企業が真剣に取り組み始めたのがここ数年の話だと考えると、ダイバーシティの議論が経営やイノベーションに関わる問題としてまだまだ成熟していない、と言えるのではないかと思います。
  • 長内 厚
    ダイバーシティの話は、これまでは経営とか戦略の文脈よりも、どちらかというと社会学、あるいはモラルや道徳の範疇で議論されることが多かったと思いますが、実は昨年、ある企業で「得するLGBT」というタイトルで講演をしたんです。
  • 太田 由紀
    「得するLGBT」というのは、面白いタイトルですね。でも、「LGBT」と「得」がどう結びつくのか、一見想像しづらいかもしれませんね。
  • 長内 厚
    企業がダイバーシティの問題に取り組むときに、道徳心や正義感だけでは続かないじゃないですか。そうではなくて、「社内にダイバーシティを確保することが、企業の戦略上むしろ有利なことであって、サステナビリティにつながるのではないか」ということを言いたくて、あえて奇抜なタイトルにしてみたんです。
  • 太田 由紀
    なるほど。講演をお聞きになった方の反応はいかがでしたか?
  • 長内 厚
    「お説教されるのかと思ったら、そうじゃなくて面白かった」というご意見をいただきました。モラルの話は人として、社会の構成メンバーとして、べき論としては理解できる。一方で自分の日々の仕事とダイバーシティがどう関わっているか、ピンときていない方にとっては、損得の話が入ると「なるほど、ビジネスに関わってくるね」と理解してもらえたのだと思います。
  • 太田 由紀
    「企業の経営にプラスになるからこそダイバーシティに取り組むべき」というのは、なかなか理解されにくい。あるいは経営者は理解していても、現場の方にとって分かりにくい場合もありますね。
  • 長内 厚
    確かに分かりにくさはありますね。ある企業ではもともと会社の戦略として、人事戦略の中に組み込む形でダイバーシティ・マネジメントをしていたところを、あるとき組織変更でPRの部門に移されてしまった。つまり「会社の社会的な活動を宣伝する」という位置づけになったんですね。その方が分かりやすいのかもしれませんが、本質からは離れてしまった感じがして、すごくもったいないと思います。こういう取り組みは、中途半端で短期的なものだと底が浅いと見られてしまいます。

    企業にとってプラスになると経営者が判断して、継続されるのならよいのかもしれませんが、ある種コストセンター的な仕事として位置づけるのではなくて、プロフィットセンターにとって、会社にとってプラスになる。そういう理解を広げていくことは、ものすごく大切であると、その話を聞いて思いました。
  • 太田 由紀
    ダイバーシティ・マネジメントの話をするときに、LGBTや女性という属性で考えることで分断が起こって、かえって組織にマイナスに働くこともあるのでは、という主張もあります。それに関して長内先生はどのように捉えていますか?
  • 長内 厚
    たとえば「女性だけでチームを作って商品企画をしたら上手くいった」みたいな話がありますね。これって実は、ダイバーシティとは反対の方向に進む可能性もある。男性中心の世の中で、過渡期にそういう女性のチームを作るのは、それが次のステップで様々な意見を取り入れることにつながるのであれば、それは一つの成果といえると思います。しかし、目的は女性だけのチームを作ることではないわけです。

    LGBTも同じことで、LGBTの話を特殊なものとして囲うよりも、ダイバーシティの中の一つの側面でしかないと捉えた方がよくて、女性も世代間ギャップの問題も、基本的には同じです。そもそも「LGBT」なんて人はいないんです。Lの人、Gの人、Bの人、Tの人、それぞれはいるかもしれませんが。決してLGBTという括りでひとつにまとめて優遇することに意味はないんです。ヨーロッパといってもドイツもフランスもイタリアもみんな違うのと一緒です。ですから、むしろ最終的なゴールは全ての人たちを一緒に扱うことで、本来のダイバーシティ・マネジメントに近くなると思います。

    でもその過程で、「自分とは違う人がいる」という認識は重要なんです。一つになるという言葉には、完全に溶け合って混ざり合う「融合(fusion)」と、ひとつひとつが独立しながら調和をとる「統合(integration)」という考え方があって、目指すべきは統合なんです。女性の社会進出の問題にしても、LGBTの問題にしても、既成の古い画一的な価値観を打ち破って、それぞれが違っていて、でもその中で共通のゴールを目指す統合が必要なんです。

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