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対談

2019.05.14

ダイバーシティ・マネジメントとは、ビジネスで得をするための「無駄の管理」である ―早稲田大学ビジネススクール 長内厚教授に聞く (前編)

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太田 由紀 Yuki Ota
太田 由紀 サイコム・ブレインズ株式会社
取締役

ソニーの復活と「本流」ではないリーダーたち

  • 太田 由紀
    「イノベーションを起こすために、人材に多様性があった方が良い」というのは、みなさん感覚的には理解できるのと思うのですが、何か分かりやすい事例はありますか?
  • 長内 厚
    昔からいわれていることですが、イノベーションはペリフェラル、つまり周辺領域から起きます。たとえば先日退任を発表されたソニー会長の平井さんは、もともとレコード会社のCBSソニーに入社された方で、後にPlayStationのビジネスにも関わりましたが、いわゆるソニーの本流であるエレキの出身ではないんです。一時期メディアで批判を受けていたときは「レコード屋の兄ちゃん」みたいな言われ方もされたことがあるらしいのですが、僕はこれはすごい褒め言葉だと思っていて。

    平井さんもそうですが、社長に就任した吉田さんはインターネットプロバイダのSo-netの社長で、CFOの十時さんはソニー銀行の社長でした。経営陣がそういった周辺領域から来るというのは、「何かやってくれそう」という期待が僕の中ですごく大きかった。これだけ大きな変化をしなきゃいけないタイミングで、エレキがソニーの中心だと思い込んでる人たちが何度も何度も失敗している中で、違う属性というのは絶対プラスになると。実際、平井体制になってソニーが復活したといわれているわけで、やはりイノベーションは本流にいるだけじゃ駄目だとあらためて実感したんです。
  • 太田 由紀
    どうしても「本流にどっぷり漬かって成果をあげている人をたくさん集めた方が、うまくいきやすいのでは?」と考えてしまいがちなところはありますね。
  • 長内 厚
    世代間ギャップの話もそうで、「管理職がある程度の年齢の人だと安心感があって、若い人が上司だと何か不安になる」みたいな、感覚的なものがあると思います。これはやはり、日本の年功序列と終身雇用がベースにあるのだろうと思います。年功序列だから上の世代を跳び越してはいけない。終身雇用だからずっとその会社の中でステップを踏んでいく。それもだいぶ変わって来ていますが、やっぱり年齢が上の方には気を使ってしまう。それがある種の制約になっていると思うんです。それって実はすごくもったいないことではないでしょうか。
  • 太田 由紀
    日本がこれまで年功序列・終身雇用で来たのは、多分それが一番成果を出しやすかったから、と言えるのではないでしょうか。
  • 長内 厚
    そうですね。1つのゴールに向かってみんながワーッっと行く局面においては、極めて合理的で、無駄のない仕組みだったと思います。ただ、ダイバーシティが求められるときというのは、無駄を許容していくことが必要です。ダイバーシティ・マネジメントの基本は無駄の管理、効果的に無駄を活用することだと思うんです。

    無駄が経営の基盤を揺るがしてはいけないけれども、新しい何かを生み出すには、様々なトライ&エラーが必要で、そのために一定の無駄や新しい考え方を許容して、会社の中に導入する。それを無駄と考えてしまっては、ダイバーシティは生まれないし、ひいてはイノベーションも生まれないと思います。
  • 太田 由紀
    「無駄の管理」というのは、面白い発想ですね。ただ、今は「働き方改革」とか「生産性向上」とかいわれていて、むしろ無駄をなくす方向で目標を立てて、それを達成するために現場が窮々としている印象もあります。
  • 長内 厚
    それはイノベーションを生む土壌としてはたぶん最悪です。生産性向上は効率性向上とイコールで、効率性を上げれば上げるほど、新しいアイデアが阻害されやすくて、イノベーションは生まれにくくなる。だから「生産性を向上してイノベーションを起こす」というのは、僕はすごい矛盾だと思っていて。イノベーションと生産性の向上という、相反するかもしれない両者をうまく両立させていくのが、今の経営者に求められていることなんです。
  • 太田 由紀
    両立できている状態というのは、どのようにイメージしたらよいでしょうか?
  • 長内 厚
    たとえば有名な話では、かつてのNTTドコモですね。通信インフラの事業部と、iモードを中心としたネットワークサービスの事業部を全く別の組織にして、それぞれ別々のカルチャーで運営したんです。通信インフラの方は効率重視。無駄をなくしてミスがないように回線網を増やしていく。一方でiモードは、トライ&エラーでとにかくいろんなことをやってみよう。これができたからこそ、ドコモの90年代、2000年代の成長があったのだと思います。こういうのを経営学では「両利きの経営」と呼んでいます。

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