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対談

2019.05.27

研究者の自由、エンジニアの技術伝承と、年齢ベースの平等意識の功罪 ―早稲田大学ビジネススクール 長内厚教授に聞く (中編)

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太田 由紀 Yuki Ota
太田 由紀 サイコム・ブレインズ株式会社
取締役専務執行役員

日本のメーカーは、もうビデオデッキを作れない

  • 太田 由紀
    私はいわゆる「自律型人材」、自分の頭で考えて判断して行動する人材を育てる、あるいはそういう人材が活躍できるようにするというのは、ダイバーシティを推進することと重なるような気がします。では何故それが難しいかというと、先ほどの「平等意識の強さ」というのが要因になっているのではと思います。
  • 長内 厚
    日本の学校教育だと、「できる子をとことん伸ばす」というよりは、「みんな同じぐらいできるように」という意識が強いですよね。それは企業の中でも同じで、ユニークな新入社員の個性を伸ばすよりも、誰に対しても同じように、「今は修行のときなんだ」「会社の色に染まれ」「まずはやるべきことをやりなさい」と。これは非常にもったいないことです。
  • 太田 由紀
    確かにそうですね。みんな一緒に同じような環境で同じような経験をして。
  • 長内 厚
    頂点が1つしかないキャリアパスの設計自体にも問題があるかもしれないですね。組織の中で昇進していくプロセスが、マネジメントとして昇進していくこと以外にない。メーカーであれば「優秀な技術者=優秀なマネジャー」とは限らない。そうではなくて、マネジメントはしないけど、ドイツのマイスター制度みたいに、優秀な技術者を評価するシステムがあればと思うのですが。
  • 太田 由紀
    今、日本の大企業で年齢構成が砂時計型というか、50代の方と20代から30代前半の方が多くて、その間の30代後半から40代の、管理職やその候補者として活躍して欲しい層が薄いことが課題になっている組織もありますね。あるいは、それこそ大きな環境変化が起こって、50代以上の方のこれまでの経験が必ずしも通じなくなってきていたり。それでも企業はむやみに解雇できない、雇用の流動性もなくて転職のハードルも高い。人も組織も身動きが取りづらい状況を今後どのようにしたらよいか、というのを最近よく考えます。
  • 長内 厚
    結局、年齢に応じたポジションという発想を続けていると、どうしても上が詰まっちゃいますよね。これは2つの意味で良くないと思っていて。一つは、下の人にとっては上の人たちが邪魔に思えてくる。もう一つは、シニアの世代の人たちも、かつてはこの年齢であればこれくらいは昇進できたのに、それができなくて自分自身を格好悪いと思ってしまう。

    そうなると、本当は優秀で、現場にとっても必要で、もっと活躍できるようなシニアの人がいても、その処遇に困ってしまうようなことが起きる。ダイバーシティで若い人の意見を重視していくことも重要ですが、何でもかんでも組織を若返らせればイノベーションが活性化するとは限らないと思います。むしろここ10年20年の間に、様々な技術・技能・ノウハウを持った優秀なエンジニアを切っていった製造業の会社は、技術の伝承ができていない。たとえば今、日本の電機メーカーはもうビデオデッキを作れないんですよ。
  • 太田 由紀
    え、そうなんですか?!
  • 長内 厚
    今のエンジニアを集めてビデオデッキを一から作れといったら、誰もできないのだそうです。もうそれだけの技術が残っていない。もちろん必要がなくなった技術だから、というのもありますが。とはいえ「じゃあ、過去の技術を使って新しいことをやろう」と思ったときに、それが伝承されていなければ全く使えないんですよね。
  • 太田 由紀
    それはもったいない……。
  • 長内 厚
    そういうシニアの人を、みんな平等に課長や部長にしたうえで残し続けるのは無理だとしても、現場で上下を気にせずに、これまでの経験や技術を活かして働ける状況をいかに作ることができるか。そういう制度設計って、ものすごく重要なんだろうと思います。

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