対談

2020.08.20

コロナ禍で改めて分かった変化し続けることの大切さ ―上田昌孝氏に聞く、企業変革とダイバーシティ (前編)

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太田 由紀 Yuki Ota
太田 由紀 サイコム・ブレインズ株式会社
取締役専務執行役員

ダイバーシティはトップの意思が大事。でも、部下に考えさせる

  • 太田 由紀
    上田さん自身、多くの企業で経営に携わる中で、ダイバーシティについては意識してきましたか?
  • 上田 昌孝
    もちろん、意識せざるを得ないですよね。ダイバーシティという言葉自体がなかった1980年代の後半に、有数のグローバル企業でも男女間の格差の問題はありましたから。ただし格差の問題は、あまりそこにフォーカスして社内ルールを厳格化すると、それを悪用する人たちが出てくるので注意が必要です。被害者意識の強い人がルールを利用して得をしようとすることがある。だから、ダイバーシティは働く人の権利として位置付けるのではなく、企業がサバイブするために必要なことと考えたほうが良いと思います。
  • 太田 由紀
    なるほど。ところで上田さんが経営者としてダイバーシティを進めようとした時に、抵抗にあったという経験はありますか?
  • 上田 昌孝
    新しいことをやろうとすれば、絶対に抵抗する人はいます。終身雇用、年功序列という世界がある中で、そこで作られた人間関係はなかなか壊れません。でもトップからすれば「抵抗するよね、でもやるよ」って、そういう話だと思う。その時に有効なのは、非常に古典的ですが、トップから指示するのではなく、部下に考えさせて、部下が作った形にすることです。ダイバーシティという大きなテーマを掲げて、「どう対応したらいいと思う?」ということを、ファシリテーターを入れてアイデアを出させるのです。
  • 太田 由紀
    考えさせる人をどう選ぶかも重要ですよね?
  • 上田 昌孝
    重要です。そこは、各企業にいる幹部候補生の仕事になるでしょう。あるいは、立候補させるポスティング制度も良いかもしれません。ただ、どちらの場合でも責任者は企業の代表者ですよ。
  • 太田 由紀
    ダイバーシティを進めるにはトップの強い意志が重要ということですね。でも、逆に経営陣の意識が低い場合もあります。ダイバーシティに関するご相談の中で、「なぜダイバーシティが必要なのか。経営にとって良いことがあるの?」というように経営陣から理解を得られないことも多いようです。
  • 上田 昌孝
    まず、ダイバーシティ以前に重要なポイントは、労働市場がシュリンクしているのに、今のままのやり方やビジネスモデルにどの程度継続性があるのか。仮に継続性があったとしても、今の社員が10年たったら10歳年をとる、下からは若い社員が入ってきていない。その状況の中で、今のビジネスモデルを維持できますか? トップに答えがあるならいいですよ? でも、あるわけがない。だから、生き残るためにダイバーシティをやらなければならないのであって、最終的にはトップがどこまで本気かという話になる。それと、極端な話、今の社長がダメでも次の世代が社長になった時にやるという割り切りも必要です。
  • 太田 由紀
    なるほど。経営者の世代交代という意味では、日本の企業の場合、10年くらいかかるかもしれません。
  • 上田 昌孝
    いま起きている変化に対応しないまま10年もその会社がもつのかという話もありますが、もたない場合は買収されて違う人が社長になるでしょうから、どちらにしても環境の変化は起こります。変化に対応しないという選択はできないのです。そこを理解して、変革に対する強い意思を持つことが必要だと思います。

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