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座談会

2017.05.19

地方が持つ、 本質的なダイバーシティとリーダーシップのあり方

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宮川 由紀子 Yukiko Miyakawa
宮川 由紀子 サイコム・ブレインズ株式会社
シニアコンサルタント

都会の価値観、企業のルールだけに囚われていないか?

  • 宮川 由紀子
    私もときどき旅行などで地方にいくと「こういう自然が豊かなところで暮らしてみたいな」と思うこともあります。でも、「自分がやりたいと思える仕事を見つけられないのではないか?」と思うと、人生の選択肢としては考えにくいですよね。そういった理由で、地方から都会に出てくる若者も多いと思います。美しい景観や伝統文化はもちろん価値のあることだと思いますが、やはり自分が暮らしていく場所にやりたい仕事があるかどうかって、地方創生にとっては重要ではないでしょうか?
  • 依田 真美 氏
    「今既に存在している仕事」の中から探すと、どうしても選択肢が狭まってしまいますが、特にこれから地方に移住を考える人にとっては、「自分で仕事を作る」という視点も大切だと思います。

    「美しい村」にUターン・Iターンで移り住む人には、もちろん農業や漁業に就く人もいますが、たとえばWebデザインの仕事とか、ECサイトで通信販売の仕事をしている人もいます。昔に比べてITが発達しているので、クライアントが都市部にいて、ときどき打ち合わせに行く必要はあるかもしれませんが、そういった仕事は地方にいてもできますよね。また、同じ農業や漁業をするにしても、都会の消費者の視点を持っていれば、これまでとは違うアプローチができるかもしれません。
  • 高橋 弘之 氏
    今、特に30代の方々を中心に「田園回帰」の流れができつつあって、ホワイトカラーの仕事だけではなく、自分が思い描いている夢を実現するために、そのフィールドとして地方を選ぶという方が非常に増えてきています。

    背景としては、たとえば「いったんは東京に出てきて働いてはみたけれど、組織の中で思うように自分のやりたいことができていない」、あるいは「正社員ではなく非正規で働いていて、今の収入では結婚もできない。将来子どもを持つこともできない」といったような、現状に対する不満や、将来に対する不安もあるのだと思います。
  • 依田 真美 氏
    都会なら人間関係もドライで、自然災害の影響も少なく暮らしていける。でも「生きていくうえで何が大切か?」と考えたときに、地方には美しい自然や深い人間関係がある。そうした環境で生きていくことは大変なことでもあるわけですが、そういう都会とは「裏返しの魅力」にひかれて移住する人も、少しずつですが増えてきています。あとは、先ほどお話したような地方が抱える課題の解決にチャレンジしたいという意識を持って、積極的に移住してくる人もいますね。
  • 宮川 由紀子
    お二人のお話をお聞きして、自分が固定観念に囚われていたことに気づかされました。会社の中で仕事をしていると、どうしても「与えられた役割を果たして、成果を出して、評価される」というサイクルの中に埋もれてしまいがちです。

    よくクライアント企業から、「主体性のない若手社員が多い」といったご相談をいただきますが、言われたことをきちんとやることで評価され続ければ、主体性がなくなるのも当然です。でも本来は、都会でも地方でも、どこでどんな仕事をするにしても、もっと主体的に考える。「自分が実現したいこと」「自分が課題だと思うこと」にチャレンジすることが大事ですよね。そういうマインドを持った若い人材が地方に集まりつつある現状から、企業も学ぶことが多くありそうですね。

企業は、次世代を担うリーダーは、地方とどう向き合うべきか?

日本有数の豪雪地帯、山形県飯豊町中津川地区にて(2017年2月初旬)
  • 宮川 由紀子
    「美しい村」に加盟しているような、自分たちで課題を解決していこうとする自治体がある一方で、やはり国まかせだったり、補助金をもらっても有効活用できていないところもありますよね。そういうときに、企業が今以上に地方に貢献できたら、日本にどんな未来があるのかな?と考えます。もちろん企業である以上、社会貢献だけではなくビジネスの視点も必要なのでしょうが。
  • 高橋 弘之 氏
    飯豊町では昨年、民間企業の方々の異業種交流的な研修のフィールドとして、場を提供させていただきました。参加者は30代の方が中心で、グループに分かれて、飯豊町の政策課題について役場の職員と一緒に住民へのヒアリングを行いながら、解決策を考えてプレゼンテーションをする、というプログラムでした。

    そこで実感したのは、民間企業の方は自分たちの主張のロジックを作ることにものすごく長けている、ということでした。これは地方自治体の職員には欠けている部分だと思います。一緒に参加した飯豊町の職員も大いに刺激を受けました。また地元の住民にとっては当たり前だと思っていた風景や文化が、都市部の方からすると貴重な資源・財産であることに気づかされるケースもありました。今後もこういった活動は行っていきたいと考えています。
  • 宮川 由紀子
    反対に、企業の方々に対して「何か欠けているな」と感じた部分はありましたか?
  • 高橋 弘之 氏
    私自身もかつてそうだったと思うのですが、「都市部での生活が、当たり前になり過ぎていいる」ということでしょうか。地方ではやはり自然と共に生きるというか、季節ごとの生活サイクルがあるので、それを前提として物事を考える必要があります。都市生活者の目線で物事を進めても、地方では通じないことがあると思います。
  • 依田 真美 氏
    都会だと通常の業務とかミーティングの予定であれば、一旦計画したらそこから大きく狂うことはあまりないですよね。でも、地方で何か活動をしようとすると、「雪が降った」とか天候の理由が代表的ですが、いろんなことで予定が動いたりするんです。

    東京ではなかなかリアルに感じられませんが、地方では「働くこと・生きることは、自然のサイクルの一部なんだ」と感じることができる。そのこと自体が非常に貴重な経験になります。企業にとっては、単に何か製品を作るとか、サービスを提供するということではなくて、一人ひとりの生き方や企業のあり方がどうあるべきかを考えるヒントが、たくさんあるのではないかと思います。
  • 宮川 由紀子
    日本企業におけるリーダーの育成でいうと、かつては実行力に重点が置かれていたのですが、一方で今の時代に必要な発想力というか、何か新しい物事を生み出す力が弱いといわれています。サイコム・ブレインズもそういった課題を持つ企業からご相談を受けることがありますが、企業である程度のキャリアを積んだ人が地方の課題に触れて、刺激を受けて新たな発想を得る…といったことは可能だと思いますか?
  • 高橋 弘之 氏
    都会とは環境が全く違うので、そこで生活したり地域の人と接することで、新たな発想を得る、というのは十分可能なのではないかと思います。あと、地方はやはり「縁」というか、人と人とのつながり、あるいはその中での共同作業によって生活が成り立っているので、そういう環境の中で得られるコミュニケーション能力もあるのではないでしょうか。
  • 依田 真美 氏
    共同作業の話でいうと、飯豊町のような豪雪地帯では毎日除雪作業が必要で、まさしく地域の皆が運命共同体といっても過言ではありません。共同作業を通したコミュニケーション能力は、表面的なスキルでななく、もっと深いレベルのものだと思います。
  • 高橋 弘之 氏
    私が飯豊町に暮らして初めて気づいたのは、職場や家での役割とは別に、地域の中での自分の役割と存在意義があるということです。人と人とのつながりがものすごく濃くて密接なので、多少の煩わしさは感じます。でも、生活していく上で自分の存在意義が認められると、仕事とはまた違うやりがいを感じることができます。漬け物を漬けるのが上手なおばあさん、ちょっとした大工仕事なら手際よくやってくれるおじいさん、そこに住んでいる皆に役割がある。皆が地域のレギュラーで、補欠はいないんです。
  • 依田 真美 氏
    会社での評価は、その人の一面に過ぎません。コミュニティーの中で生きていくと、自分の色々な面が評価される。それぞれが活躍する場面が必ずあるというのが、地方のいいところだと思います。
  • 宮川 由紀子
    「全員がレギュラーで活躍できる場所があって、いろんな面が評価される」というのは、企業にも是非取り入れたい考えですね。そういう考えを持つことで、「与えられた目標を達成する」という視点だけではなく、「いろんな面をもった様々な人たちに活躍してもらう。共通の課題や目標に向かってメンバーをまとめる」といった、もっと本質的なダイバーシティやリーダーシップが組織に根づいていくのではないでしょうか。また、企業で働くリーダーが、もっと地方というものに触れて学ぶことで、従来の研修ではカバーできないような問題解決力を身につけることができるかもしれない。今回のお話を通して、そんな可能性を感じました。
  • 依田 真美 氏
    そうですね。都会の人だけでなく、地方で暮らす人たちにとっても、新しいマインドセットを身につけるきっかけになると思います。先ほどお話した通り、ITの発達によって地方にいてもできる仕事は増えています。一方、地方ではそういう情報を知っている人は限られています。そこに対して都会から来た人たちが、「自分たちの会社ではこんな研究をしていて、10年後・20年後にはこんなことが可能になるかも」という話を共有しながら、みんなで未来を見ていく。そんなことが起こると、地方で暮らす人たちも都会で働いている人たちも、今までとは違うオプションを考えながら進んでいけるのかなと思います。