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コラム

2016.10.12

至難の時代?あるいはチャンス?…営業部はどう進化すべきか

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鳥居 勝幸 Katsuyuki Torii
鳥居 勝幸 サイコム・ブレインズ株式会社
ファウンダー / プログラムディレクター 専任講師
至難の時代?あるいはチャンス?…営業部はどう進化すべきか

この研修紀行も6年目になりました。その間、北は青森から南は宮崎まで、そして日本国内だけでなく上海・バンコクと、私がうかがった先は広範囲に及びます。これまでに出会った多くの会社のことを思い出しつつ、今回は「営業部の進化」について考えてみました。

なくならない「営業不要論」

ネット社会になってから、ときおり鎌首をもたげるのが「営業不要論」です。時代はウェブマーケティング、そしてウェブを絡めたカタログ通販や来店型窓口販売へ。営業鞄を手に顧客に赴く、昔ながらの訪問営業は終焉するのではないか。営業は受発注処理とクレーム対応をしながら、顧客との関係性を維持していればいいのではないかと。

ある企業のマーケティング部は、「営業を不要にするのが自分たちの仕事だ!」とつい声高になってしまい、営業部は「現場のことを知らずに何を言っているんだ!」と猛反発。まあ今に始まったことではありませんが、市場に大きく投網をするマーケティングと、大物を一本釣りしたい営業部の湿り気のある確執は、昔から変わらない古式ゆかしい風景です。

また「営業不要論」とまではいかなくとも、昨今「売り込まない営業で業績が上がる」といった論調もありました。確かにここ数年、そういったタッチのハウツー本も少なくなかったような気がします。「モノを売り込むだけでは売れない」という意味では、それも正しいでしょう。しかし「売り込まなくてもいい」と言い切るのは、現場のマネージャーだったらかなり勇気のいることです。

ある会社では、「“売り込まない営業”の本を全員に買い与えよう」という社長に対し、営業を統括する常務が「うちの連中は素直なので、それだけはやめてくれ」と嘆願した、という一幕があったそうです。

こうした「営業不要論」的なものに対して、営業部自身は「はい、そうですか」というわけにはいきません。己の存在感を確認すべく、いかに高度で難しい仕事をしているかを、自分たちに言い聞かせ、周囲にもアピールしようとします。反面、それによって営業の仕事が難しいものとして暗黙知化し、新人・若手が育たなくなるという弊害もあります。

「営業の見える化」の持つ、負の側面

もともと営業部は、暗黙知のかたまりのようなところですが、その傾向はますます強くなっているようです。営業企画部などがあの手この手で営業を「見える化」しようとするのですが、システム上の表面的な情報共有でよしとされ、顧客接点での大事な部分はますます見えなくなっているような気がします。

そのうえ、みんなプレイングマネージャーになってしまったので忙しい。おまけに上層部や営業企画部から「あの書類を出せ」「これをレポートしろ」と、同じような書類をたくさん要求されるので、昼間からオフィスの中でパソコンに向き合っている時間が長い。加えて残業時間には制限が。それもあって時間の余裕というものが本当にありません。営業部が本社に反発したくなるのは、そのあたりにも理由があります。

そんなこともあって、営業現場のOJTでは新人や若手がほったらかしになり、いい人材を採ってもなかなか育ちません。先日ある会社で聞いたところ、OJTが「オマエ、ジブンデ、トッテコイ」という、なんとも自虐的な意味で使われているとのこと。営業部の新人・若手諸氏には同情するしかありません。

「マニュアル型」と「課題解決型」の間でゆらぐ営業部

私は「最近の営業は元気がないなあ」と思います。こう言ってしまうとオヤジの小言そのものですが、顧客に向き合う姿勢がクールだなと感じるのです。たとえば形式的なヒアリングだけして帰ろうとする人、顧客に対する自己主張に乏しい人…。

ある名門販売会社で若手営業の研修を後ろで見ていたら、受講者が私のところに来てこう質問しました。「私ひとりでお客様の役職者に会っても、マナーに反しないのでしょうか」。私は唖然として、驚きとともに彼の上司に対して憤りさえ覚えました。たとえ相手が社長でも会うのが営業の仕事であり、醍醐味です。もっと主体性を持って欲しいと思うのです。

主体性の話とも関連しますが、私の全国行脚の中で、経営者の悩みどころとして比較的多かったのが、営業方針の選択でした。一つの典型的な方針は、「顧客とのコミュニケーションを誰でもできるようにマニュアル化すべきだ」ということ。もう一つの対極的な方針は、「顧客ごとに事情は違うので、マニュアル化よりも課題解決型でいくべきだ」ということ。どちらがいいという解はありません。それは状況によります。

たとえばあるメーカーでは、当初の方針は「顧客ごとの課題に対処するスタイルでいく」というものでしたが、営業のスキルアップに時間がかかることから、途中で「多くの顧客に対してマニュアル営業を行う」という方針に変更されました。ところが、それでは顧客の期待に応えられない、それどころか上位者が会ってくれなくなる。また自社の顧客に攻めてくる競合他社を排除することができないことが判明。結局、方針を元の課題解決型に戻すことになりました。このゆらぎは1年という短い期間に起こりました。

課題解決型営業のスキルは、すぐに身につくものではありません。中長期的な課題と捉えて取り組む方がいいでしょう。課題解決型営業を組織的な能力・文化として根づかせることができれば、大きな競争力になると思います。事実、私が10年以上お付き合いをしている成長企業をみると、そのような考えをお持ちの経営者ばかりなのです。

個人に対するOJTから、組織としてのOJL(On the Job Learning)へ

さて、営業部のこれからの進化の方向を提言させてください。

ネット社会になり、営業には以前にもまして「知的な働き」が求められるようになっています。営業はネットで様々な情報を手にし、調査の手間を省くことで、顧客価値を生み出す仕事に専念できるようになっています。一方、顧客は自分たちが抱える課題をどう解決すればよいか、ネットで情報を得ようとします。しかし、あふれる膨大な情報の信ぴょう性については疑わしい。また誰もが情報にアクセスできるということは、その情報をそのまま鵜呑みにしても優位性は生まれないことを意味します。

そのような中で顧客が営業に期待するのは、ネットでは見つからない課題解決策です。営業にはネット以上の知恵やノウハウが期待されます。営業はそれに応えるべく研鑽を積み、自らの知的能力を高めていかなければなりません。また様々なエキスパートを使いこなすプロデューサーとしてのスキルも備えなければならないでしょう。

営業パーソンとして学ぶべきことは尽きません。またこうした学びは個々人の努力だけでは限界があります。つまりこれからの営業部は、個々の営業パーソンが自己完結するのではなく、組織として英知を結集し、顧客の課題解決に取り組む集団になることが求められます。営業テクニックのOJTから、組織としての深い気づきと学習を伴うOJL(オン・ザ・ジョブ・ラーニング)へ。そういう深い学びができる営業部が不要になるはずはなく、顧客のパートナーとしてますます必要とされると思います。

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営業大全

最後に宣伝になってしまい恐縮ですが、このたび日本経営合理化協会より私の新著『営業大全』を上梓しました。本書は、「マネジメント編」「新規開拓編」「既存顧客編」の全3冊で構成されています。これまで数多くの企業に関わってきた私の経験をもとに事例をあげながら、 「時代の変化に対応する必須の戦略と組織づくり」「確実に成約率を上げる体系的な新規開拓手法」「既存顧客取引を深耕・拡大させる課題解決型営業」など、これからの営業部における「人」と「仕組み」、その両方を強くするためのノウハウを解説しています。詳しくは日本経営合理化協会のウェブサイト( http://www.jmca.jp/prod/2480 )をご覧ください。 近日中にAmazonなどの通販サイトでもご購入いただけますので、是非お手にとってご覧いただければ幸いです。

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