利他性の経済学…顧客との関係・コミュニケーションを再構築する
では、これからの営業が向かう方向を挙げてみます。
これまでも営業では情報提供が重要視されてきましたが、どちらかというと、商品販売のための情報提供が主だったと思います。「販売」を一時棚上げして「貢献」のために知識提供してみてはどうでしょうか。「モノ」の販売ではなく「コト」の解決へ。売り手と買い手という一面的な付き合いから「事業成長サポーター」または「幸せサポーター」という自己ミッションを持つ。私は何者かという深い問いから、顧客との付き合い方が変わるかもしれません。営業はまず顧客への貢献を第一義に考える。顧客がネットではできないことを営業がやる。顧客がプロの見解を求めたいときに寄り添っていること。そんな存在価値のある営業を目指してはどうでしょうか。
営業プロセスとは、誰もが知っている通り、「情報収集」、「ニーズ理解」、「提案」、「成約」、そして「購入された商品やサービスによる貢献」というものです。ところが最近、情報収集とニーズ理解でつまずいてしまう。もしかしたら従来型の営業プロセスでは今以上の成果は生まれないのではないか、そんな気もします。顧客はネットによって営業と同等の情報を手にしていますから、営業に情報収集されたりヒアリングされたりするプロセスを端折って、スペックとか価格とか、自分が知りたいことだけを聞いてきます。顧客にとって、いちいち営業の質問に答えるのは退屈極まりない時間なのです。だいたいのことは、営業に会う前にもうわかっていることですから。
では、こう考えてみてはどうでしょうか。「情報収集は、お役立ちポイントを探すため。商品が売れても売れなくても今はどっちでもいい。まずは貢献すること。商売の前にまずお役に立つこと。第一義にそれがある。さて、どうすればお役に立つことができるだろうか」と。こちらから先に貢献しようとすると、相手は信頼してくれて、こちらの提案を受容してくれるようになるものです。
どこの会社でも地域密着営業と言っていますが、その意義を聞いてみると、単に支店を置いてセミナーなどを行っているだけだったりする。地域密着営業とは、地域への貢献がまずあって、だから地域人脈が構築できて、だからこそ、その地域ならではの提案ができるというものでしょう。地域の産業、観光、名産品、歴史、祭り、ボランティア、地域活性化などに関与して、まずお役に立とうとすること。それが地域密着営業の始まりです。
利他性の経済学という研究があります。舘岡康雄氏の著書の前書きから要点を拝借すると、「利他的行為の代表的な例と言えば支援である。これまでのように他者から奪ったり、他者を管理したりしても、自己の利益を最大化できない世界に私たちは入りつつある。自己の利益のためにはまず他者を支援し、他者をして自身を支援してもらうしかない」。ロバート・グリーンリーフはサーバントリーダーシップを提唱しました。それは、まずメンバーに尽くす、貢献する。そうするとメンバーは自分を信頼してくれる。そしてメンバーは自分が示すビジョンを共有してくれるようになる、というものです。サーバントリーダーシップは、上司が部下に対する手法として語られることが多いのですが、「営業」対「顧客」、「メーカー」対「販売店」「日本本社」対「海外現地法人のマネージャー」であっても、同様ではないかと思います。