コラム

2020.10.29

私が日本の大企業を辞めた理由 ― 外国人社員の離職を防止するために(前編)

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蒋 小敏 Xiaomin Jiang
蒋 小敏 サイコム・ブレインズ株式会社
コンサルタント

明確なキャリアプランを示してくれたのに・・・

ここで私自身のことを例にして少しお話したいと思います。先ほどお話した通り、私は中国出身で、日本の大学院を卒業しました。そして、グローバルな環境で自分の価値を高めたいと考えて日本の大手小売企業に就職することにしました。

実は私はもともとコンサルティング会社に入りたかったために、特に小売企業に対する興味を持っていませんでした。なぜ私がコンサルティング会社への就職を諦めてこの企業に入社したかというと、採用面接で個人個人に対して明確なキャリアプランを示してくれたからです。採用担当の方は、キャリアアッププランの様々な事例を見せてくれました。そのため、入社1年目から20年目までのキャリア(役職)を明確にイメージすることができました。しかも一緒に私のキャリアプランまで作ってくれたのです。私は、就職活動中に何十社もの採用担当者に会いましたが、これは初めてのことでした。

この会社に私と同期で入社した外国人は60名以上、新入社員の10%です。彼らは全員日本のトップレベルの大学・大学院を卒業した優秀な人たちでした。私は、この外国人同期たちになぜこの会社を選んだのかを聞きました。理由の中には必ずこのキャリアプランの話が入っています。ですから、明確なキャリアプランを見せるという採用戦略は非常に有効なアプローチであると言えます。

改めてお伝えすると、外国人社員はキャリアアップに関する考え方が日本人と違います。日本企業では今もなお1つの会社に就職したら一生そこで働き続ける、しかも年功序列が基本的な前提として根付いています。また、総合職・一般職といった枠で採用する場合が多く、特に明確なキャリアプランを提示しないまま、会社の方針と個人の希望によって社員の配属や異動を決めてしまいます。つまり、日本企業では社員のキャリア形成は受動的であると言えます。しかし、まずは日本で就職して、日本での就業経験を積み、それを基にキャリアアップを計画しようとするキャリア形成に主体的な外国人社員にとって、キャリアプランが不明確なままでは働き続ける気持ちになれないのです。

このように、新卒で入社したこの会社は非常に安定した大企業で、長期的なキャリアプランも明確に示してくれたのですが、数か月たつと、業務に慣れ、同じ作業を繰り返す日々に自分の成長イメージが見えなくなってしまいました。明確なキャリアプランと現実とのギャップです。もしこの時、その時点の業務とキャリアプランがどのようにつながっているか説明があれば、あるいは、業務以外に、日本で働くために必要な知識やスキルを身に付ける研修があれば、すぐには離職しなかったかもしれません。

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