- 内藤 高史サイコム・ブレインズ株式会社
ソリューションユニット
マネジャー/シニアコンサルタント

皆さまこんにちは。前回のコラムでは損害保険会社D社における代理店指導強化の事例をご紹介しました。今回は製薬会社のE社に対する支援事例をお伝えしたいと思います。
コラム
2017.04.10
皆さまこんにちは。前回のコラムでは損害保険会社D社における代理店指導強化の事例をご紹介しました。今回は製薬会社のE社に対する支援事例をお伝えしたいと思います。
今回の支援の目的は、「営業スキル研修における社内講師の育成」です。従来E社では、MRに対する商品知識に関する研修、そして病院のドクターと折衝を行うための営業スキルに関する研修を、社内講師の指導により実施していました。商品知識の研修は元開発担当者など高度な専門知識を持つ方が、そして営業スキル研修は優秀な成績を収めた元MRが講師を担当していました。今回ご相談を受けたのは、後者の営業スキル研修の講師トレーニングです。
今回E社であらためて講師トレーニングを実施することになった背景の一つには、「研修のICT化」があります。E社では、これまでエリアごとに集合研修で行っていた商品知識の研修を、オンライン配信による映像教材と理解度テストに置き換え、知識のインプットを目的とした集合研修はなるべく実施しない、という方向にシフトしつつあります。これは、各エリアで忙しく営業活動をしているMRの方々の稼働を減らさず、同時に集合研修にかかるコストを削減するというメリットがあります。そのような背景から、「これまで商品知識の研修を担当していた講師に対して、営業スキルの講師もできるようにしよう」という流れになったわけです。
今回の講師トレーニングの対象者は約20人、ベテランクラス(営業スキル研修の講師として経験豊富な方が対象)と、新任クラス(商品知識研修の経験はあるが、営業スキル研修は未経験の方が対象)の二つのクラスに分けてトレーニングを行いました。
トレーニングではインタラクティブなデリバリーのスキル、つまり「受講者との双方向のやりとり」にフォーカスを置きました。これは「講師が受講者への問いかけやフィードバック、発言内容を受けてのコメントなどが上手くできず、その結果、受講者の学びが浅いものになっているのではないか」という研修担当者の課題認識によるものです。受講者は日々の営業の中で、様々な課題や悩みを抱えています。研修において、自分の営業スタイルに対する固定観念やこだわりから離れて学ぶためには、講師が受講者の気づきをいかに引き出すかが重要になります。研修担当者とのディスカッションを重ねながら、今回は以下のようなプログラムでトレーニングを実施することにしました。
<ベテランクラス>
<新任クラス>
講師トレーニングの後、参加者からは次のようなコメントが寄せられました。
<ベテランクラス>
<新任クラス>
E社に対する支援を通して、私は研修における講師の役割の重要性をあらためて認識しました。企業内で行う集合研修というものは、現場を離れて参加する受講者、企画や実施準備に奔走する研修担当者、業績の向上に期待する経営陣といった様々な人々の想いが集まる場です。そのような研修において受講者の学習効果を高め、そして成長を促進するために、講師にとって必要なものとは何でしょうか? 私は以下の3つだと考えています。
これは講師として当然あるべき要素だと思いますが、社外講師・社内講師を問わず、こうした意欲がない、あるいは意欲が言動に表れていない講師がいる、というお話をお聞きすることがあります。たとえば、受講者の意見をすぐに批判・否定してしまう、あるいは受講者が営業として担当している顧客のこと「お客様」ではなく「客」と表現してしまう講師がいます。受講者はこうした講師の態度や言葉づかいに敏感に反応して、学習意欲を下げてしまいます。またこのような講師は、研修後に受講者についてのレビューを求めても、受講者のさらなる成長に向けた具体的なコメントは返ってきません。
講師によって研修のデリバリーにばらつきが出ないように、研修中の各パートの進行方法や時間配分についてマニュアルを作る場合もありますが、中には「マニュアルがあるから」と安心し過ぎて、事前の準備を怠ってしまう講師もいます。優秀な講師は、マニュアルにあることは事前にある程度頭の中にインプットして、研修中はマニュアルを何度も確認する必要がない状態になっています。その分、研修のゴールや目の前の受講者のリアクションに気を配りながら進行することに意識を向けるので、受講者が迷子になることがありません。
また学習内容をより具体的に理解してもらうために、講師の経験談を話すことがあります。気をつけたいのは、成功・失敗事例など、自身の経験を話すことで気分が高揚してつい長話になり、研修の終盤になって時間が足りなくなってしまうことです(こうしたケースは珍しくありません)。経験談はあくまで研修の目的に沿ってポイントを絞って欲しいところです。
今回のE社の事例で特に重視された要素ですが、特に営業スキル研修においては、知識のインプットよりも、グループ討議やロールプレイによる気づきが非常に大切です。よって講師には受講者の気づきを促進する技術が必要です。たとえば受講者が討議で出た内容を発表するときに、たとえ発言が漠然とした内容であっても注意深く傾聴して、重要なキーワードを見逃さないこと。あるいはロールプレイの後に営業役、お客様役、双方の立場から振り返りを行い、普段の営業活動の中では認識できないコミュニケーションの課題に気づかせること。単に発表させるだけ、あるいは浅いコメントしかできない講師は生き残ることができないでしょう。
次回のコラムでは、5月にアメリカ・ジョージア州で開催される「ATD国際会議2017」の参加レポートをお届けします。
内藤 高史サイコム・ブレインズ株式会社
ソリューションユニット
マネジャー/シニアコンサルタント
明治大学政治経済学部政治学科卒業。建設会社を経て2002年より現職。営業組織の業績向上の支援と新人~中堅社員を対象としたコミュニケーション研修の講師を担当。業績向上支援においては、研修担当者とのディスカッションを重ね、研修プログラム、教材、ロールプレイ、ケーススタディ、映像教材等の制作と講師マネジメントを担当。他に、同行営業、コーチング、インタビュー、アセスメントの実施、効果測定等の様々なソリューションを提供。DiSC®インストラクター認定者/ ProfileXT認定コンサルタント/宅地建物取引士。東京都杉並区出身。趣味はテニス。
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