- 太田 由紀サイコム・ブレインズ株式会社
取締役専務執行役員
コラム
2015.07.28
前回のこのコラムで、最後に「女性管理職は、管理職になるまでの間に充分な『良質の経験』を積むことが出来ていたか?」という問いを提示しました。
残念ながら、この問いには「否」と答えざるを得ないでしょう。
厚生労働省「平成25年度雇用均等基本調査」において、企業が『女性管理職が少ない或いは全くいない理由』として選んだ回答(複数回答可)の第1位及びその比率は「現時点では、必要な知識や経験、判断力を有する女性がいない:58.3%」でした。因みに同回答の第2位及びその比率は「女性が希望しない:21.0%」です。
なぜ「管理職に必要な知識や経験、判断力を有する女性がいない」のか? この理由は同調査にはありませんが、主に次の3つを考えることができます。
①女性の入社時から、将来管理職になることを想定した育成をしてこなかった。
管理職適齢期、或いは管理職候補者にかかる年代層は企業により異なりますが、概ね三十代中盤以上と考えられます。
この年代層の女性が、入社時から同期の男性と同様に「当然、将来管理職になるのだから、それなりの経験を積ませる必要がある」という発想で育成されたケースは、一般的には少なかった(基本的になかった、或いはごく限られたエリート女性だけがそのように育成された)と考えられます。
②入社時から育成してきたが、上手く育たなかった。
上手く育たなかった理由としては
などが考えられます。
③入社時から育成した結果ある程度順調に育ったが、管理職になる前に退社してしまった。
結婚・出産・子の小学校入学・夫の転勤等のライフイベントに直面し退社するケースは、残念ながら恐らく少なくないと考えられます。
上記理由のうち③について考えるのは別の機会に譲ることとします。
①については、男性に対してと同様に、若い頃から将来管理職になることを想定した「良質な経験」の機会を与えることが大切です。
管理職になるための「良質な経験」とは、前回コラムでご紹介した通り、「部門を超えた『連携』の経験」「『変革』に参加する経験」「部下を『育成』する経験」の3種の経験と考えることが出来ます(松尾睦氏『成長する管理職』より)。
松尾氏の研究によると、日本企業のマネジャーは担当者時代から、上記3つの経験のうち「部下を『育成』する経験」は多く経験することが可能であるが、「部門を超えた『連携』の経験」は不足する傾向にあり、「『変革』に参加する経験」はさらに少ないとのことです
ただでさえ不足しがちな『連携』『変革』の経験ですが、今後は男性だけでなく女性にも与える必要があるでしょう。もちろん、女性に「ゲタをはかせなければならない」と言っているわけではありません。少なくとも経験を与える候補者リストに、同等の能力があるのであれば女性も加えることが必要です。或いはそのような経験を自分から取りに行かせる、創り出させることも大事です。
また②については、まず女性にも管理職登用の道が開けていることを言行一致で伝えること、上記「良質な経験」をさせることで、「管理職」という立場の面白さを垣間見させ、意欲を喚起すること、並行して女性の特性を踏まえた育成を行うことが重要です。
とはいえ、上記の策は「管理職候補者層を厚くするための策」であり、既に管理職或いは管理職候補者となっている女性にとっては、今から「良質な経験」を与えるだけでは不十分です。
これらの層に対しては、過去「良質な経験」をするによって得ることが出来たはずの知識・スキル・判断力・ネットワークなどを、off-JTの場で早急に補完する必要があります。
因みに弊社においても、管理職として必要な経験や判断力・スキルの補完を目的とした「女性管理職育成プログラム」を9月より開講します。ビジネスリーダーとしてのパフォーマンスに影響を与える特性を診断するHogan Assessmentの受検・個別FBもご受検頂きます。次のアドレスより詳細をご覧頂ければ幸いです。
詳細:
http://www.cicombrains.com/open_class/japan/20150918.html
太田 由紀Yuki Otaサイコム・ブレインズ株式会社
取締役専務執行役員
一橋大学社会学部卒業。株式会社リクルートにて中小企業の新規顧客開拓営業、および求人広告媒体の編集制作を担当。キャリアや人生を自ら切り開き構築する人々とともに歩み、支援したいという思いから1986年ブレインズ株式会社を設立。2008年にサイコム・インターナショナルとの合併を経て同年より現職。同社の人事を統括するとともに、研修プログラムの開発に力を入れる。また、講師としても約1万人への研修実績を誇る。担当研修はリーダーシップ強化研修、意思決定力強化研修、ビジョン立案強化研修、OJT強化研修、キャリア開発研修、UPAビジネスコミュニケーションスキル研修、UPAネゴシエーションスキル研修、UPAコーチングスキル研修など。近年では、組織のダイバーシティ推進および女性のキャリア開発支援に力を注ぎ、ミドルマネジメントを対象とする「アンコンシャス・バイアス研修」などの企業内研修に多数登壇。
―これまでの女性を中心としたダイバーシティ推進の振り返りから、タレントマネジメントの本質へ(後編)
対談
2021.04.19
―これまでの女性を中心としたダイバーシティ推進の振り返りから、タレントマネジメントの本質へ(前編)
対談
2021.04.08
―上田昌孝氏に聞く、企業変革とダイバーシティ(後編)
対談
2020.09.01
―上田昌孝氏に聞く、企業変革とダイバーシティ (前編)
対談
2020.08.20