- 加藤 円サイコム・ブレインズ株式会社
シニアコンサルタント
去る2022年6月29日、サイコム・ブレインズでは「『学習計画』で成果が変わる英語の自己学習~社員のスキルアップを促すために本当に必要な支援~」をテーマとしたオンラインセミナーを開催いたしました。セミナーでは、企業における社員向け英語力向上施策の最近の傾向をお伝えするとともに、社員の方々が自身の英語力向上のプロセスで抱える課題を、学習カウンセリングのカウンセラーの立場から、私、加藤がいくつかの事例をあげて紹介していきました。本レポートでは、セミナーの内容を振り返りつつ、アンケートにてご要望いただいた成功事例もお伝えしたいと思います。
イベント概要
企業の英語力向上施策において、費用対効果の意識が高まっている
セミナーの冒頭では、まず、社員の英語力向上施策における最近の傾向として、目的が二極化していることを上げました。ひとつは、赴任者、現在あるいは近い将来に業務で英語を使う方、といった、「目の前の英語での業務・課題解決」を目的とした施策。もう一つは「将来のグローバル人材のプール」を目的とした施策です。
また、ここ数年間、多くの企業で、英語力向上施策全体の対象人数が絞られてきており、そのような中、希望者を募っておこなわれる募集型施策の割合が大きくなってきている、という傾向についてもお話しました。これは、「現在や近い将来に仕事で英語を使うかまだわからないが、英語力向上に前向きな社員には機会を与えたい」という方針の企業様や、「会社としては、緊急度やモチベーションの高い社員に投資したい」と、費用対効果の視点を強く持つ企業様が増えてきていることを示しています。こういった理由から、例え、自己研鑽の位置づけで行われる募集型の施策であっても、事後課題としてテストの提出を課すような、成果を重視した取り組みが増えてきています。
2つの英語能力とそれぞれの向上におけるポイント――「英語運用力」向上には、自己学習支援も有効
費用対効果の視点を持つということは、成果に結びつく施策を企画する必要があるということです。セミナーでは、次に、企画の際に意識すべき「成果」として、大きく2つの英語能力にわけて解説しました。ひとつは「ビジネスコミュニケーションスキル」、もうひとつは「英語運用力」です。
一つ目のビジネスコミュニケーションスキルは、ここでは、英語を流暢にしゃべることではなく、ビジネスシーンで適切かつ効果的に相手に働きかけ、目的を達成する力のことを指しています。例えば、英語のプレゼンテーションであれば、プレゼン時の流暢さではなく、メッセージの内容自体に説得力があり、相手に納得させ、行動を促すようなプレゼンができる、という状態です。スキルの習得・向上にあたっては、研修の受講により、今まで知らなかったことや意識していなかったことの認識・改善が可能であり、例え1日の研修であっても、学習者に行動変容がおき、成果が表れやすいです。
二つ目の英語運用力は、母国語と同じように英語で聞く、読む、話す、書く力のことです。この力は1日や数日間の研修で伸ばすことが困難であり、成果がでるまでには、3か月以上の長期的な取り組みを検討する必要があります。今は、英会話アプリなどのツールも多数存在し、学習者自身で、英語運用力の強化に取り組みやすくなってきていますが、長期間の取り組みをうまく設計、マネジメントするためには、第三者による「自己学習の支援」の提供も効果的です。当社でも「学習カウンセリング」などを通して自己学習の支援を行っています。
モチベーションの高い社員でも陥る英語学習の落とし穴:学習時間の確保
冒頭、英語力向上の施策が、緊急度やモチベーションの高い社員に絞られてきている、というお話をしましたが、そのような社員であれば、会社が手取り足取り支援しなくても自己学習ができるのではないか、と思われる方もいるかもしれません。しかしながら、例え海外赴任を目前に控えた社員の方であっても、英語運用力が思うように向上せず、焦りや悩みを抱えているケースも非常に多くあります。
セミナーでは、学習カウンセリングを通じて実際に見えてきた社員の方々の課題をご紹介しました。
「目標設定が実務とつながっておらず成果を実感しにくい、会社から評価が得られない」「課題の要因分析が不足しており、適切な学習方法に辿りつけない」といった課題の例をお見せしましたが、このレポートでは、「③実行性が低い(時間・ツール)」のうち、時間の問題について、もう一度取り上げてみたいと思います。この問題を取り上げる理由は、時間の確保が社会人の学習において一番大きな問題であり、かつ講師やカウンセラーのアドバイスがあっても、学習者自身が取り組まなければ解決できない問題だからです。
上記のスライドの例のように、モチベーションの高い学習者の方ほど「毎週末〇時間、英字新聞を読む」「毎日〇分、単語を覚える」といった理想的な学習計画を作成しがちです。真面目でやる気があるからこその計画内容ですが、いざ実行してみると、急な残業、休日出勤、家族の予定などに押し出され、「今週も計画を実行できなかった」という状況が続き、次第にモチベーションが下がっていくケースをよくお見かけします。
学習の実行性を高めるためには、まず大前提として、ゴール達成のために必要な時間をある程度想定できていることが重要です。例えばCambridge Assessment Englishが公表しているガイドラインでは、CEFR(言語能力を評価する国際指標)のレベルを一つ上げるために200時間必要であると明記されています。また、一般的にTOEICの点数を1点あげるのに2時間程度の学習時間が必要などともいわれています。このような目安を参考に、「自分はTOEIC150点アップを目指しているから、最低でも300時間の学習が必要だ」というように、ゴールが見えている状態で、日々学習時間を消化してくとモチベーションが継続しやすくなるでしょう。
また、着実に自己学習を実行できている方は、時間を確保する工夫をしています。例えば、簡単には予定を変更しにくい「講師の予定確保やキャンセル料が発生するレッスン」の予約時間の直後に、自己学習の予定をセットで組みこむ、などが一つの方法です。そうすることで、自己学習の時間が他の予定に浸食されにくくなります。同様の工夫の例として、他にも、朝の定例会議の予定の前に必ず自己学習の時間をとり、習慣化に成功している方もいらっしゃいました。
限られた時間でより高い成果を出すための、適切な学習方法を選択できているか?
時間を確保した上で、できるだけ短期間で成果を出すためには、自身の目標・課題とマッチした学習やトレーニングの方法を選択することも重要です。英語の習得は確かに時間がかかるものですが、自身が選んでいる学習・トレーニング方法が何に有効なのかを把握しないまま続けてしまうと、ゴール達成までさらに遠回りになってしまいます。
上記のスライドは、トレーニングの方法が目標・課題と合っていない例を示したものです。一つ目のケースでは、学習者の方が「言いたいことが瞬時に英語にできない」という課題の要因を語彙力不足と分析し、その解決方法として「単語を覚えてテストする」というトレーニングを設定していました。しかし、この方法では、単語を見たときに意味が言えるようにはなっても、なかなか単語が口をついて出てくるようにまではなりません。そこで、改善案として、「単語帳に記載されている例文を覚えて、日本文を見て英語に変換できるかをトレーニングする」という方法を提案いたしました。覚える内容を単語から例文に変えたことで、最初のうちは1日20個の例文を覚えることは難しいため、10個に変更しました。しかしながら、最終的には最初の方法と比較して、「言いたいことを瞬時に英語にできるようにする」というゴールにはより早く到達することができました。
社員の英語力向上のために、会社や組織としておこなうべきこと
今回は、紙幅の関係上、2つほどの事例の紹介にとどまり、すべての課題に言及することはできませんが、これらの課題を解決し、社員が着実に成果を上げるために、会社としてできることについて、私の考えを最後にお伝えします。
モチベーションの高い社員を中心に行われることの多い英語力向上施策ですが、それにも関わらず、作成された学習計画をみると、目標が曖昧であったり、英語を用いて自分が何を達成したいのかが、学習者本人にも見えていなかったりするケースが多くあります。そこで、会社や上司の方には、まずは「会社の目的や期待の共有」を行っていただけると良いと思います。自組織がどういう方向に向かっていて、どのような人材がどれくらい必要なのか。学習者である社員はいつまでに、何のために、どの程度の英語力を身につける必要があるのか。これらをイメージする手助けをしていただけると、仕事に必要ないちスキルとして、英語力向上を捉えられ、取り組めるようになるでしょう。英語力が向上したらキャリアの幅が広がることを示す、というのも非常に効果的です。
英語力向上には時間がかかるため、学習者の努力次第、と捉えている企業も多いと思います。実際、実務レベルへの到達には個々の学習の継続が不可欠です。しかしながら、仕事の専門スキルに加え、英語力が高い社員は、会社としてできることなら「早急に」欲しい人材なのではないでしょうか。一般的に、CEFR B2レベルが仕事で使える英語レベルと言われていますが、先にも述べたCambridge Assessment Englishが公表しているガイドラインでは、Beginner レベルの方がB2に上がるために必要な学習時間は500 – 600 時間と推定されています。単純計算すると、1日1.6時間程度学習すれば約1年で到達できるわけですから、効果的ではない学習を何年間も続けさせるより、的確な時間・方法で学習できるよう支援をおこない、着実に自組織が求めるグローバル人材になってもらうほうが効率的ではないでしょうか。例え、自己学習を中心とした施策であっても、学習者である社員本人の努力に任せきりにはせず、研修会社や学習カウンセラーなどの専門知識も上手く活用しながら、会社として社員の学習計画の作成や進捗に関与し、目標達成までの道のりを伴走する仕組みを研修と併せて導入することをお勧めいたします。
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加藤 円Madoka Katoサイコム・ブレインズ株式会社
シニアコンサルタント大学卒業後、児童英語講師、高校非常勤英語講師、留学コンサルタントを経て当社へ入社。シニアプランナーとして、英語基礎力強化、TOEIC対策研修、スピーキング力強化研修などの企画、教材開発、研修クオリティー管理、講師マネジメントに携わった。現在はシニアコンサルタントとして活躍中。オーストラリア、イギリス、アメリカの滞在経験から、英語をコミュニケーションツールとして、様々な国の人とディスカッションすることのおもしろさと難しさを実感する。自分の経験を生かして、英語学習についての悩みを共有することで、グローバルな環境で活躍する受講者の応援をしたいと考えている。
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