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勝 幹子
サイコム・ブレインズ株式会社
取締役執行役員
日本企業において海外赴任者や外国籍社員が増え、海外の取引先や顧客と接する中で、日本とは異なる文化を強く意識する機会が増えている方も多いのではないでしょうか。近年の組織・人材開発の領域においても、「企業文化」「文化的多様性」「異文化理解」といったように、「文化」という言葉が多用されています。
文化を経営における重要な要素、活用すべきツールとして研究・コンサルティングを行う専門家集団「Hofstede Insights」が毎年開催する国際会議、「The Culture Factor」。今年は10月3日から3日間、イタリアのミラノで開催されました。サイコム・ブレインズから参加した3名が、セッションの内容や所感をレポートします。
「人々が何を求めて生きているのか?」で世界の国々を分類――「7つの文化圏」と「メンタルイメージ」
Hofstede Insightsによる活動のベースには、オランダの社会人類学者、ヘールト・ホフステード博士による長年の研究成果があります。ホフステードは、文化を「ある集団を他の集団から区別する心のプログラミング」と定義し、「権力格差の受容度」「不確実性の回避度」など、6つの次元で国別の文化の違いを数値化しました。これを「ホフステードの6次元モデル」と呼びます。サイコム・ブレインズでは、この6次元モデルを異文化マネジメント研修の核として、たとえば特定の国にマネージャーとして赴任する方にとって、部下に対してどう振る舞えばよいか、といったプログラムを提供しています。
<文化を理解する6つの次元>
- 権力格差 (大きい 対 小さい)
- 個人主義 対 集団主義
- 男性性(タフ) 対 女性性(やさしい)
- 不確実性の回避度(高い 対 低い)
- 長期志向 対 短期志向
- 人生の楽しみ方 (充⾜的 対 抑制的)
近年Hofstede Insightsでは、この6次元モデルのうち4つの次元について、数値の高い/低いという傾向の組み合わせが似ている国々を分類し、「7つの文化圏」というものを定義しています。この「文化圏」を使うと、一つ一つの国だけでなく、価値観の似ている国をまとめて理解できますので、特に多くの国の特徴について一度に話をしたいとき、例えば世界中から参加者が集まるグローバル研修の時などに有効なツールです。また、この文化圏の分類は、「そこにいる人間が何を求めて生きているのか?」というそれぞれの世界観、つまり「メンタルイメージ」を明らかにしていますので、6次元モデルのそれぞれの次元で示される価値観を見るときよりも、より総合的な考えを理解することができます。今回のカンファレンスでも、このメンタルイメージに基づく文化圏を利用したエクササイズや応用例がいくつか紹介されていましたので、皆様にもご紹介したいと思います。
日本人のメンタルイメージは、世界のどの国とも似ていない?!
上記の図は、世界の国々を7つの文化圏に分類したものです。見ていただくとわかるように、この「文化圏」は必ずしも「アジア」あるいは「中東」といった地域によって分類されているのではありません。例えば「ピラミッド」の文化圏には、ポルトガル、ブラジル、韓国など、ヨーロッパ、南米、アジアといった各地域の国が入っています。
注目したいのは、7つ目の文化圏は日本だけで成り立っていることです。つまり日本が属する文化圏は、世界の中でどの国にも似ておらず、特殊な世界観・メンタルイメージのパターンを持っているということです。日本人のメンタルイメージを表すキーワードは、「高い達成動機」「目標」「進歩」「明確な役割分担」「専門性の発揮」「部下のイニシアチブと上司の決定」「血縁以外の集団の利益を優先」です。
セールストークは文化圏によって変わる
さて、メンタルイメージは、それぞれの文化圏におけるビジネスの進め方を理解するのに役立ちます。
例えば、イギリスとオランダの顧客それぞれに、自分の会社の商品を売り込みに出張に行くとします。地理的には近い国ですので、同じセールストークだけで済ませてしまいそうなところですが、2つの国は別の文化圏に属しており、持っているメンタルイメージが大きく違うので、話し方や商談のシナリオをかなり変える必要があることがわかるでしょう。
具体的には、「競争」の文化圏に属するイギリスの顧客に対しては、効率重視なのであいさつや背景説明はなるべく省略してすぐ本題に入ります。また、相手にとってのベネフィットの大きさを強調して伝えることが効果的です。一方、「ネットワーク」の文化圏に属するオランダ人は、あまり誇張された話には「不信感」を抱くので注意が必要です。また、だれとでも平等な関係にあることに心地よさを感じる人たちなので、友達のようなフランクなアプローチで、多少は個人的な話をすることも効果的でしょう。
さらに、足を延ばしてポルトガルに行くことになったとしたらどうでしょうか?ポルトガルは「ピラミッド」の文化圏で、個人としての人間関係が極めて重要ですから、まずは顧客に紹介してくれる仲介者を見つけることが大切でしょう。またヒエラルキーが強いので、自分が話をしている担当者に決定権がない場合は、さらに上層部へ何らかの形でアクセスしなくてはならないことも覚悟しておいたほうが良いでしょう。
今回、3日目の外部にオープンされているカンファレンスでは、それぞれの「文化圏」のメンタルイメージに基づいて、「良い第一印象を作るには」というテーマでプレゼンテーションが行われました。
ドイツに代表される「機械」文化の人には専門性や勤続年数の長さ、資格などをアピールするのが良い、フランスやスペインの属する「太陽系」文化ではエレガントさや名の知れたブランドや学校・団体等との関連が重視され、インドや中国の「家族」文化では、まずは信用を得るために時間を投資することが必要なので、共通の友人や紹介者との関係、自分の経歴などを話しながら、共通点をなるべく多く見つけることが大切である等、「文化圏」を使うことで実際のソリューションを導きやすくなることが、わかりやすく説明されていました。
通常、我々が実施している異文化マネジメント研修は1日しかないこともあり、このメンタルイメージを取り入れるのが難しかったのですが、今回話を聞いて、より多くの国と接点のある方や、多国籍のナショナルスタッフに向けた研修、じっくり取り組める複数日の研修などでぜひ使っていきたいと改めて思いました。さらに、日本本社の担当として世界各地での研修実施を運用をしたり、システムの入れ替えを推進したりといった、グローバルプロジェクトにかかわる方々に非常に有効なツールであると思います。現在、グローバルプロジェクトがうまくいかなくて悩んでいらっしゃる皆様、文化の違いは経験ではなく、知識と分析で解決できる部分も大きいのです。ぜひ、「6次元モデル」と「メンタルイメージ」をつかって、文化の問題を科学的に考えてみませんか?