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鳥居 勝幸
サイコム・ブレインズ株式会社
ファウンダー / プログラムディレクター 専任講師
サイコム・ブレインズの鳥居・宮川・内藤が「仕事につながる研修づくり」について語り合う、座談会の後半戦の模様をお伝えします。長年支援している企業での研修を振り返える中で、「研修の場でも仕事の場でも、組織の中で学習が進む状態にすることが、プログラムづくりの重要なポイントである」とあらためて認識した3人。トークはさらに深い部分に切り込んでいきます。
( 座談会の前編はこちら )
他人から与えられたテーマでも、「当事者意識」を引き出す
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- 宮川さんと内藤さん、ふたりとも10年以上担当している企業だと、その間の歴史とか将来に向けたビジョンを顧客と共有しているよね。それがプログラムづくりに活かされることってない?
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- 宮川さんもおっしゃっていましたが、RFPの中の文言だけを頼りにしていると、いいプログラムを作ることは難しいんです。正確にいうと、言外にあるものも含めて解釈していかないとプログラムが作れないんです。RFPの出どころは人事部や事業部なんですが、実際私たちが見なければならないものって、その会社の組織と仕事の現場なんですよね。そういう意味で、長い間その組織を見てきた強みはあると思います。
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- 組織にフォーカスを置くことで、どういう点でいいプログラムができるかっていうと、知識やスキルの習得はもちろんなんだけど、受講者の側でいうと自分自身や自分の会社に対する気づきというか、見つめ直しみたいなものが起こることが多いよね。
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- そうですね。たとえば人事が社員に対して「もっとグローバルな企業を目指そう!もっとグローバルな人材になろう!…だから○○研修をしよう!」というメッセージを発信したとします。でも、それが商社という組織だったら、現状として既に海外に行って何か取り引きをして日本にビジネスを持ってきたり、海外のどこかの国でビジネスを起こしている組織なんです。だから人事からのメッセージ対して、現場からは「もう自分たちは十分グローバルだよ」みたいな反応が返ってくる場合もあるわけです。
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- 確かにそういう反応になりそうですよね。でもそのメッセージは、実はもっと奥が深いと。
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- そうなんです。私だけでなく鳥居さんも講師としてその組織を長い間見ているから、議論をファシリテートする中で、「世界中で仕事はしているけど、今のままでいいのだろうか?」とか「戦略の面でまだまだだよね?」みたいな議論が受講者から出てくるんです。そのうえで「あらためて会社としてどのようなグローバルを目指すべきか?」とか「どうやって部下や海外拠点のスタッフと方向性を共有すればいいの?」という話にも発展していくわけです。まさしく自分や会社に対する見つめ直しです。そこまで議論ができると、他人から与えられたテーマが自分たちのテーマになって、当事者意識が生まれるんです。
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- そうそう、当事者意識! プログラムづくりって、当事者意識を引き出すためにやってるんだよね。「矢印を自分に向ける」というかさ。たいていの場合、午前中は矢印が他人に向いている。「アレとコレが悪い。会社と上司が悪い。業界が、競合が、顧客が…」ってね。でも午後になると、矢印はブーメランのように自分に向かって飛んできていることに気づくんだよね。
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- 鳥居さんの研修だとよくありますよね。ホワイトボードで因果関係を矢印で結んでいくと、その矢印が自分たちに向かうっていう。「あれ!これって自分たちが悪い?」みたいな。
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- 研修のテーマに沿った知識やスキルは、それ自体の習得よりも、そのテーマにおける自分の課題や組織の課題に気づくこととセットにしないとダメなんだよね。
コンサルタントの眼は「多様性」、講師は「第二の上司」
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- 内藤さんは営業力強化の相談が多いけど、施策として営業のやり方を大きく変える必要がある場合、組織の文化を理解することも大事なんだけど、その文化をある程度否定するというか、変革していかないといけない局面もあるよね。
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- その場合、変革した後の「あるべき姿」って、どのように固めていくんですか?
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- もちろんまずはお話を聞いて、解釈して、私なりの仮説を立てて、それを書類にまとめたうえでディスカッションしていきます。先方の方々もぼんやりとはわかっている、だけどまだモヤモヤしているものを、一緒に明確にしていく感じですね。会社に長くいると見えないこともあると思いますので、僭越ながら「外部の眼」というのは、大きな変革を起こす場合には特に必要だと思います。
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- おそらくその企業は、内藤さんとディスカッションをすることで「多様性」を手に入れているんだよね。社外のコンサルタントなんだけど、その組織のことを長いこと知っている。全くど素人の無責任な多様性じゃない。それはすごいメリットがあると思うよ。
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- 鳥居さんも、講師として受講者に「多様性」を提供できますよね。
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- そうだね。コンサルタントが人事や事業部の担当者にとっての多様性だとすれば、受講者の目に見えているのは講師だからね。別の言葉で言い換えると、講師は「第二の上司」なんだよ。「第一の上司」が教えてくれないことを教えてくれたり、導いてくれる人。僕はいつも第二の上司だと思う。研修の日だけはね。受講者にとって第一の上司が与えてくれる視点も大事なんだけど、第二の上司がいると多様性を手に入れるよね。でもそれは無責任な多様性じゃなくて、僕も受講者とその組織を分かってアドバイスしてるから。第二の上司として仕事が回るようにしてあげたい。今日は学習と仕事のつながりについて話をしてきたけど、特に研修中は第二の上司として「部下の仕事の方しか見ていない」と言っても過言ではないんです。
研修担当者と受講者のニーズ、違うようでいて根っこは同じ?
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- ところで、研修担当者から聞くニーズが受講者の考えと必ずしも合っていないことがありますよね。担当者の賛同なしにはプログラムが決まらない。でもそのプログラムは受講者から受け入れられないかもしれない。そんなとき、コンサルタントとしてどうしますか?
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- なかなかキワドイ質問ですね(笑)。たとえば営業組織の規模が大きい企業だと、人材開発部の方が営業出身であることも多いので、その場合だと担当者と受講者の間のズレはあまりないんです。でもまぁ、たまにはありますけどね。
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- ズレるとしたら、どんなことですか?
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- たとえばマインドや姿勢の話ですね。「営業パーソンのあり方」とか「顧客志向」みたいなことを、新人や若手の営業パーソンに徹底させたいという担当者のニーズがあったとします。でも受講者からは「忙しいのに今更そんなこと? 要は業績・数字でしょ?」みたいな顔をされることもあります。あるいは、営業マネージャーに対して「現場でPDCAができていない。PDCAを研修で教えてください。」という担当者の希望とは裏腹に、ベテランのマネージャーからは「PDCAなんてもう分かってるし、やってるよ」という意見が出てきたりします。
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- そういう場合、内藤さんとしてはどのように調整していくんでしょうか? 難しいですよね。私たちはまず担当者の考えを尊重しなければならないですから。
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- 確かにそうですね。でも現実として、受講者のアンケートで評価の低い研修は、その後続かないことの方が多くて。それだと結果的に私は担当者のお力になれなかったことになります。だから私としては、担当者の方が言葉として表現したことを受け入れつつ、それを100%そのままで返すのではなくて、今日お話してきたような組織のことも考えますし、可能であれば現場でリサーチしたり、営業に同行したりして、担当者にも受講者にも響くような、理解していただけるような言葉に加工するようにしています。
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- 講師としてもそこは気をつけます。実際PDCAが十分にまわっていないのは明らかなんだけど、ベテラン社員をつかまえて「PDCAとは…」って講義したらどうなるか。総スカンだよね。
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- そうですね。だから「PDCAとは?」から入るんじゃなくて、営業の課題を聞いて、掘り下げていったら「実はPDCAができていない」あるいは「十分にできていない。もっと細かくやるべきだ」というふうにもっていかないとダメなんです。
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- 担当者と受講者で考えが違うというのは、言葉の表面的な部分に過ぎない場合もあるんですよね。それを丁寧に紐解いていったら、実は双方が同じようなことを課題に感じていて、表現方法が違っただけという。
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- そうなんです。「PDCAができていない」と「PDCAを実践しているが、十分に機能していない」では意味が異なります。同様に「PDCAを教えたい」と「PDCAが機能していないことに気づかせたい」も違う。さらに受講者の側も「PDCAなんてもう知っている」と「PDCAがちゃんとできている」は違うんですよね。だから現実がどうなのかをできるだけ把握したうえで、担当者と受講者、それぞれに対してどんな言葉で伝えたらいいかを考えます。
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- そういうプロセスを経て担当者からOKをもらったら、今度は受講者に合わせてプログラムを組み立てる。2段階の作業が必要なんですね。
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- 結構苦労するけど、コンサルタントの腕の見せどころですよね。
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- 今日話をしてきて、私たち結構頑張ってるなって思いました。
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- 我ながら、よく「出禁」にならずにやってこれました(笑)。