座談会

2021.08.11

未知との向き合い方は、一人より誰かと考えた方がよい ~コロナ禍があったからこその「人事としての軸」(後編)~

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今矢 敦士 Atsushi Imaya
今矢 敦士 サイコム・ブレインズ株式会社
コンサルタント
未知との向き合い方は、一人より誰かと考えた方がよい

昨年4月の緊急事態宣言の発出から1年以上の月日が経ちました。その間、多くの企業が様々な変化を経験してきましたが、それは人事にとってもチャレンジの連続の日々だったのではないでしょうか。リモートワークへの移行はその代表的な事象です。そこではインフラの整備だけではなく、離れて働く社員、直接会えない社員に対するマネジメントの課題も顕在化してきました。一方で、今回のように予想もしない事態におかれたときに、人事としてどのようなスタンスで人と組織の問題に向き合うのか、ということをあらためて考えるきっかけにもなったのではないでしょうか。そこで今回は、サイコム・ブレインズの「次世代戦略人事リーダー育成講座」の卒業生の3名にお集まりいただき、人事として直面した今回の環境変化をふまえて、あらためてそれぞれがもっている人事観について、お話をお聞きしました。

「To Be」にたどり着くために、「As is」に向き合う

  • 今矢 敦士
    コロナ禍前のことを思い出すと、東京2020オリンピック・パラリンピックへの対応もあってリモートワークの準備や部分的な実施を始めていた企業も多かったと思いますが、まさかここまでの事態になるとは、もちろん誰も予想できなかったのではないでしょうか。これまでも、そしてこれからも、私たちは予想ができない中でビジネスをしなければならない、という意味で今回のコロナ禍は私たちにとって学びの場でもあったのだと思います。皆さんが人事としてこれからの世界でお仕事をしていくにあたって、大切にしていきたいことをお聞きしたいです。
  • 谷 圭一郎
    私が資生堂に入社する前、ジョンソン・エンド・ジョンソンに在籍していた頃の話ですが、当時、10以上の異なる人事制度を持つ事業部門に対する給与計算や社会保険などのオペレーションを担当していて、仕事に辟易していたことがありました。そういった時、当時の上司が、マイケル・ジョーダンの「自分は靴磨きをしていても、お客さんとの会話や、その日の天気と売り上げとの相関関係を分析して、どうしたら売れるかを考えて楽しめるだろう」という言葉を引用しながら、「まず目の前の仕事をしっかりやれば、そこから広がってくることは必ずある」と話してくれました。当時は「とにかく頑張れ」と言われているように感じてしまっていたのですが、振り返ると、その時々の業務に向き合ってキチッとやってきたことが、周囲からの信頼に大きく貢献していたんですね。オペレーションから制度設計の仕事に変わったあと、制度の設計思想、ビジョン、導入により目指す姿などを考えるのに四苦八苦していましたが、一方で、プロセス・オペレーションや人件費のシミュレーションについてはしっかりと組み立てられることから「こいつに任せておけばちゃんと仕上げてくるだろう」という信頼を持たれていることにあらためて気づきました。過去には、オペレーションしかできないことに引け目を感じていたこともあったんですけど、それらが安定してできることは強みになる、信頼になる、そこに+αの要素が加わっていくことで仕事の幅が大きく広がっていく、と気付いたことがありました。

    もう一つ、人事としては、経営陣が描くビジョンやあるべき姿、つまりTo beと、足元の状況や現場の社員が抱えている課題を伴ったAs isをつなぐことが必要だと感じています。当社は、元々かなりトラディショナルな企業で中途採用の比率も少なかったのですが、社長も含めて社外から中途入社するメンバーや外国籍のメンバーが増え、社内のダイバーシティーが急速に高まる中で、一部の社員から「そんなにすぐには変われない」という声が出てくることもあります。そういう時、どうすれば二つをつなげることができるのか考える必要があるかなと。「あるべき」に振り過ぎた制度にすると社員はついてこないし、現状を少し改善しただけの制度だと会社はなにも変わらない。間のどこを目指すのか、それで次のアクションをどう仕掛けるのか、人事としてロードマップを描くことが重要なのかなと考えています。
谷 圭一郎 氏
  • 高尾 千香子
    私の場合は、以前、広告会社で働いていたときの現場が、一人ひとりがやる気に満ちていて、自分はいい会社で働いているなと思った体験が原点になっているように思います。さらにさかのぼると、私の実家が自営業を営んでいたのですが、その時も仕事場には、チーム一丸となって皆が働いていて、活気があってという風景がありました。ただ、長い年月の中では、組織として上手くいっている時もそうでない時ももちろんあり、時には「あれ、職場の雰囲気ってこんな感じだっけ」、と思った時期もありました。こうした経験を通して、自分は一人ひとりが良い組織で働いている環境を作りたい、そんな世界を作りたい、という強い思いを持つようになったと思います。最終的にこういう世界を作っていきたいという理想を考える上で、環境が大きく変わっている中、クリアな絵が見えているわけではないし、To beの正解は組織や業界によっても違うとは思うのですが、私としては、To beを考える上で、世界をちょっと画期的なものにしたい。「会社って、こんなに面白くていいの?」と思うくらい、面白い会社を作れたらいいな、という考え方をしています。
  • 岡本 弘基
    私は、たまたま人事というフィールドに入り、これまで15 年間仕事を続けているのですが、おそらく自分が一番お役に立てるのは人事のフィールドだとも感じています。人によって人事でやりたいことは様々だと思いますが、やりたいこと・できること・市場で求められていること、の三つが合わさったところが天職と呼ばれるものだと思います。人はそれを自分で見つけて、社会に還元していくことを求められているというのが私の意見です。仮に私がセールスフォースの営業であれば、クラウドで実現可能なソリューションを提案し、社会に貢献することになるかもしれませんが、今は人事業務に携わっているので、HRBP業務を通じて会社に対して、そして会社を通じて社会に貢献したいという思いがあります。
岡本 弘基 氏
  • 今矢 敦士
    人材開発のコンサルタントという私の仕事では、クライアント企業の社員が活躍する可能性を広げることで、社会の課題を間接的に解決していくのかな、と私は考えています。社員の方が、今まで自分では気づくことが難しかった長所、強化することが難しかったスキルなどを見出す支援ができます。そのことで、社内で新たな側面を評価され、チャンスを得ることにつながります。私は自分の仕事を通じて、そういった人が1人でも多く増えてくれることを願っています。

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