コラム

2021.06.30

経営リーダーが「DXプロデューサー」になるために ~自社のDX推進を抽象論で終わらせない、最初にとるべき4つのステップ~

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宮下 洋子 Yoko Miyashita
宮下 洋子 サイコム・ブレインズ株式会社
ソリューションユニット コンサルタント

「DXで何が変わるのか?」をストーリーで語ると、推進に必要なリソース、周囲の気持ちが集まってくる

STEP3.自社技術を顧客視点で語る

専門家ときちんとしたディスカッションをしながらDXを推進するためには、相手の言葉を翻訳・展開し、指摘・問いかけ・確認ができるといったスキルが必要です。このスキルを習得するためには、場数・練習が必要な面がありつつも、今は悠長にそれを待っていられる局面ではありません。そこでお勧めなのは、「顧客のどんな課題を解決できるのか・それはなぜか」という顧客視点で常に語ることができるコミュニケーションスキルを習得させる、というアプローチです。弊社の研修では、簡潔なフレームワークを用意し、それをもとに各部署へ自社の技術の特長(競合優位性・持続可能性・模倣の難しさ・今後の開発ロードマップなど)をヒアリングしたうえで、「顧客のどんな課題を解決するのか」を分析・評価してプレゼン(言語化)するセッションを入れることをお勧めしています。特に技術者とコミュニケーションをとる際、技術者は細部にわたり正確に説明しようとするため、全体観が見えなくなる、ということに陥りがちです。よって経営リーダーは、技術に関することは、なるべく抽象化して語り、アイデア構想の鍵となる「顧客のなにをどう解決し、顧客への提供価値を創造するのか」を、関係者間で押さえ続けながら議論するための訓練を行います。結果、複数の顧客ベネフィット別に自社技術をあれこれ語ることができるようになれば、ひとまず充分なレベルを備えているといえるでしょう。

STEP4.顧客の理想的状態をストーリー化する

ここまでのステップを経て最終的に目指すべき姿は、「顧客が気づいていない課題を洞察し、その課題が解決したときの理想状態においてデジタル技術がどのように支援しているのか」をストーリーとして語れる人材になっている、というものです。その技術の詳細を説明するのではなく、顧客の体験がどう変わるかを活き活きと語れるかは、バックグラウンドの異なる多様な関係者を巻き込む際に重要となります。例えば、デザインシンキングのカスタマージャーニーなどのフレームワークを使って、顧客の体験プロセスを整理・具現化したうえで、1~2分で語りきる“ピッチ”を練習したり、様々な人からフィードバックを受けて内容を練り直す経験を積まれるとよいと思います。こうした不確実性の高い未知のソリューションを企業として前に進めるには、経営陣含む関係者に、まず「面白そう」「もっとリソースを投下してその方向で調べてみたら?」と思わせることが重要です。アイデアに乗らせ、多様な部署から必要な情報・サポートが集まりやすくすることで、この後のビジネスモデル化のステップが格段に進みやすくなります。DXを「絵に描いた餅」にしないために、ぜひストーリーテリング力を磨いてください。

以上、経営幹部およびその候補層がデジタル技術を理解し、多様な専門家との連携を演出できる、いわゆる「DXプロデューサー」を育成するための4つのステップについてご提案させていただきました。

冒頭で申し上げたとおり、昨今の経営幹部やその候補層向けの研修では、DXに関する事業提言をさせるための研修として、アクションラーニングを実施することが多いです。しかし、いきなりアクションラーニングを実施しても上手くいかないのが実情です。ここでご紹介した4ステップを通じてDXに関する基本的な知識とスキルを習得してから実施することをお勧めします。

昨今の若手・中堅社員にとっては、入社時から業務が当たり前のようにデジタル化されていていて、業務のもともとの目的やプロセス、全社的な情報の流れ・処理の構造は把握し辛い状態となっています。だからこそ、経営幹部およびその候補層には、自社のDXを抽象論で終わらせないために、事業計画のソリューションに当たり前のようにデジタル技術を取り入れる考え方の癖付け・習慣化をしていただくことが重要であると強く感じます。これによって、自然と自社はもちろん業界全体、海外、世の中の技術動向へのアンテナを張るようになり、デジタル技術と自社のビジネスを繋げる着想の練習・経験を積んでいただけるようになると思うのです。

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